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ブロックチェーンの未来 金融・産業・社会はどう変わるのか

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仮想通貨だけじゃない、ブロックチェーンの実用例

日本総合研究所副理事長 翁百合氏、東京大学大学院教授 柳川範之氏、京都大学公共政策大学院教授 岩下直行氏

〈実用例3〉
エバーレッジャー社によるダイヤモンド取引

 英国のエバーレッジャー社は2015年にスタートしたベンチャー企業である。ダイヤモンドを鉱山から消費者の手に渡るまで追跡し、ダイヤモンドの鑑定情報や取引履歴、移転証明などをブロックチェーン上で記録・管理する。現在管理しているダイヤモンドの数は約98万個。

 外部にAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース:あるシステム・サービスを利用するための手順やデータ形式などを定めた規約のこと)で連携することで警察や保険会社もデータを参照可能である。このデータにより、保険金詐欺なども防げることから、ダイヤモンドの価値自体を引き上げ、後述する社会的な問題を解決するエコシステムを作り上げることに成功している。このビジネスは、プライベート型ブロックチェーンを活用し、スマートコントラクトによって取引や売買が容易となっている。

 「記録の改ざん不可」「データを分散して安全に管理」「スピーディーな情報共有」といったブロックチェーンのメリットは、ダイヤモンドの管理に非常にマッチしている。古くからダイヤモンドの取引市場では盗難や鑑定書の偽造、また宝石にかける保険金の詐欺などが頻発、またマネー・ロンダリングやテロ資金の温床ともいわれている。同社のビジネスモデルは、こうした業界の不健全性、社会的な問題をブロックチェーンという新技術で解決したい、という発想から生まれたと創業者であるMs. Kempは語っている。

 冒頭述べたように、日本においては金融取引の分野を中心にきわめて多くの実証実験が行われている。たとえば、JPXにおけるポスト・トレード処理の事例。また住信SBIネット銀行の入出金取引・振込処理の事例などがあげられる。

 海外に目を向けると、実用例として具体的に紹介した企業だけでなく、英国セーフシェアー社や米国NASDAQなど、すでに実験の域を越えビジネスとしてスタートしている事例もみられるほか、さまざまな分野における実証実験が、世界各地で現在一斉に進んでいる状況といえる。

翁 百合・柳川範之・岩下直行 編著 『ブロックチェーンの未来』(日本経済新聞出版社、2017年)、「第Ⅰ部 ブロックチェーンは社会をどう変えるか」から

翁百合(おきな・ゆり)

NIRA 総研理事。日本総合研究所副理事長。慶應義塾大学特別招聘教授。京都大学博士(経済学)。日本銀行、産業再生機構産業再生委員、日本総合研究所理事などを経て、2014年より現職。金融審議会委員などの政府委員を多数務める。著書に『不安定化する国際金融システム』(NTT出版、2014年)ほか。

柳川範之(やながわ・のりゆき)

NIRA 総研理事。東京大学大学院経済学研究科教授。東京大学博士(経済学)。専門は契約理論、金融契約。慶應義塾大学経済学部専任講師などを経て、2011年より現職。金融審議会委員などの政府委員を多数歴任。著書に『法と企業行動の経済分析』(日本経済新聞出版社、2006年)ほか。

岩下直行(いわした・なおゆき)

京都大学公共政策大学院教授。慶應義塾大学経済学部卒業。日本銀行入行後、日銀金融研究所・情報技術研究センター長、日銀金融機構局・金融高度化センター長、日銀決済機構局・FinTech センター長などを経て、2017年4月より現職。経済産業省FinTech研究会委員などの政府委員を多数歴任。

ブロックチェーンの未来 金融・産業・社会はどう変わるのか

翁 百合・柳川範之・岩下直行 編著
出版:日本経済新聞出版社
価格:2,160円(税込)

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