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ブロックチェーンの未来 金融・産業・社会はどう変わるのか

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仮想通貨だけじゃない、ブロックチェーンの実用例

日本総合研究所副理事長 翁百合氏、東京大学大学院教授 柳川範之氏、京都大学公共政策大学院教授 岩下直行氏

 また、いくつかの中央銀行はデジタル通貨の研究を始めており、すでにスウェーデンの中央銀行リクスバンクは、工程表を定め、デジタル通貨発行の検討に入ることを2017年に入り明らかにしている(※3)。スウェーデンの場合ブロックチェーンが使われるかは未定であるが、将来は、中央銀行自身がブロックチェーン技術を活用し、デジタル通貨を発行する可能性もある。もし、将来中央銀行の法定デジタル通貨が発行されることになれば、その特性がどのようになるかに依存するが、現在の紙の銀行券や銀行預金よりも競争力を発揮するならば、銀行業にも影響を与えるであろう。そして現在、さまざまな仮想通貨を扱っているフィンテック業者にも、影響を与える可能性もある。

(※3)" Riksbankens e-krona"14 March 17 project plan(スウェーデンリクスバンクHP参照)。

仮想通貨の応用としてのさまざまなユースケース

 仮想通貨以外にも、ブロックチェーンはさまざまなユースケースがあることはすでに述べた通りである。仮想通貨の技術の側面から、応用される順番で分類していくと次の通りである。

 第一は、仮想通貨のプラットフォームで、そのまま仮想通貨を取引するものである。たとえば、仮想通貨による国際送金などである。

 第二は、仮想通貨のうち、その「分散型台帳(DLT)」の技術を活用して、異なる資産の取引に使うものである。たとえば、ビットコインのマイニングによるPoWを活用し、ビットコインのプラットフォームで、ビットコイン以外の取引をしているものがある。扱う資産は、新たなコイン、金融資産や不動産などさまざまであり、これらはカラードコインとよばれることもある。たとえば、このあと紹介する、ファンダービーム社によるトークンなどがこうした分類に入るであろう。

 一方、「分散型台帳(DLT)」で、許可された(Permissioned)特定の人だけが使える、コンソーシアム型、またはプライベート型で新たな分散型台帳を構築し、新たなビジネスを構築しようとしている実証実験は現在多く見受けられる。たとえば、銀行勘定系システムの構築、銀行におけるKYC(個人認証の仕組み)のシステム構築、サプライチェーンにおける活用、政府における不動産登記などである。

 以下では、活用している主体別に、歴史的にはビットコインと同じ2000年代初頭に開発が始まった政府部門の取り組み、具体的にはエストニア政府の実用例、ついで金融や産業の実用例のいくつかについて、その概要を紹介していこう。

2 政府のプラットフォームに活用

 連載第1回で述べたように、ブロックチェーンは帳簿技術のイノベーションであり、事実証明としてのデータ履歴の「台帳」(個人の健康情報、不動産などの財産の所有権、納税など)として、より安全にデータを保管、利用できるというメリットがある。この点を生かし、政府などの公共部門において活用が始まっている。具体的には、エストニア電子政府の中でブロックチェーン技術(※4)が用いられている。

(※4)厳密には、モノやカネの取引が行われていないので、第1回で述べてきたブロックチェーンの特徴とはやや異なるが、ガードタイム社のKSIは、過去からのデータの要約をチェーンで結び、改ざんをすぐに検知できる仕組みとなっており、広くブロックチェーン技術であると捉えられている。

〈実用例1〉
ガードタイム社によるエストニア電子政府への貢献

 エストニアは、国民の個人IDを活用し、住民情報や、カルテ、処方箋などの健康情報の管理、納税、投票など、さまざまな行政サービスを電子化している。国民にとって利便性が高く、コストが小さな電子政府を実現している。また、非居住者に対しても永住者同様の安全なデジタルIDをエストニアが発行し、公証サービスなどが受けられ、会社も設立できるようになっている(e-Residency)。

 既存のレガシーシステム同士を直接結ぶ「X-Road」という相互連携ネットワークがプラットフォームとなっており、政府内の情報連携の鍵となっている。「X-Road」とは、各省庁が個別に持つデータベース同士を、インターネットを介してつなげて、相互参照を可能とするデータ交換基盤を示す。データは暗号化され、署名を付与して送信される。政府のデータベースは、銀行や通信会社にも接続が許されている。

 この「X-Road」に無償で技術を提供しているのが、2006年にエストニアでスタートしたガードタイム社である。同社の独自のブロックチェーン技術であるKSI(Keyless Signature Infrastructure)は、大規模に分散されたデータの改ざんをリアルタイムに検知できる。実は内部犯行を含めると、データ改ざんの完全防止は難しいという現実がある。そのため、改ざんに気づくことができ、改ざんされる前の状態に戻すことを可能とすることで安全性・信頼感を供与している。安全性に対する国民からの信頼は、納税や健康情報にもとづく新たな行政サービスの展開が次々と可能となっている理由の一つといえる。

 現在、世界では、たとえばスウェーデン政府では土地登記に関する実証実験が始まっているほか、東欧のジョージア(グルジア)、英国などさまざまな電子政府化の取り組みの中でブロックチェーンを使った実証実験が行われている。

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