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ブロックチェーンの未来 金融・産業・社会はどう変わるのか

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仮想通貨だけじゃない、ブロックチェーンの実用例

日本総合研究所副理事長 翁百合氏、東京大学大学院教授 柳川範之氏、京都大学公共政策大学院教授 岩下直行氏

 仮想通貨ビットコインには、ブロックチェーンという画期的な技術が用いられている。その適用範囲は仮想通貨にとどまらず、世界のさまざまな企業や金融機関・政府が、この技術による多様なサービスの実証実験を行っている。最終回では、ブロックチェーンの実用例を仮想通貨を含めていくつか紹介する。

 ブロックチェーン技術は、現在、日本で金融取引をはじめ、さまざまな領域への適用を目指し、実証実験が行われている。だが世界に目を向けると、すでにビジネスとしてスタートしているものも存在している。ここではいくつかの実用例を紹介する。

1 仮想通貨に活用

 ブロックチェーン技術が世界で初めて使われたのが、仮想通貨ビットコインである。ビットコインは2009年頃から使用され始めたが仮想通貨の種類は2017年現在、すでに700種類を超えるといわれ、時価総額は特に2017年以降大きく上昇している(図表1)(※1)。その中で大きなシェアを占めているのはビットコインである。ビットコインを含む仮想通貨では、「価値情報の移転記録」としてブロックチェーンが使われている。

図表1 仮想通貨時価総額の推移

(※1)2017年に入り、ブロックチェーンを活用した資金調達(ICO:Initial Coin Offering)が隆盛している。トークンを用いて短時間で大規模な資金調達が可能となっている。投資家は高値になることを見込んでトークンに投資し、取引に利用される仮想通貨も値上がりしている。このような手法は従来の証券と何が異なるのか、等、さまざまな論点を提供しており、監督当局も関心を寄せている。

 仮想通貨は手数料も安く、国内の決済や海外送金の手段として使われているが、主に値上がりを期待した投資用の資産として保有されており、中国での利用が多い。日本においても多くの仮想通貨取引所が存在しており、2016年、他の先進国同様、マネー・ロンダリングへの対応や利用者保護のための法制整備が行われたところである。仮想通貨は、今後利用者の活用が徐々に広まっていくものとみられる。

仮想通貨と法定通貨

 なお、ビットコインなどの仮想通貨は、法定通貨である銀行券や硬貨とは異なり、発行者である中央銀行を持たない。したがって、信頼できる中央銀行通貨が存在するところでは、ビットコインなどの仮想通貨がそれに取って代わることが想定されているわけではない。しかし、仮想通貨はデジタルに取引履歴を追えることもあり、実はマネー・ロンダリングなどの対応については、取引履歴が追えない現金よりも優れた特性も持つ。銀行預金と比較すると、受け渡しに仲介者を必要としない点が利点であり、またプライバシー対応も可能である。

 2013年のキプロスでの大手銀行破綻時に、キプロスの金融システム不安が拡大し、ビットコインの使用が増加したことは記憶に新しい。このように中央銀行や既存の金融システムに対して競争的な存在の新たな通貨が出現した、といえる。ハイエクが『貨幣発行自由化論』(1976)を著した時代には想定されていなかった、まさにこの書物で提起された国が通貨発行を独占していてよいのか、という問題提起が現実に起こっているともいえる(※2)。一方で、2017年8月のビットコイン分裂で、仮想通貨の持つ分散型自律的合意システムの特性も明らかになってきている。

(※2)なお、仮想通貨と電子マネーも、決済など電子的な取引が行われ、外形的には類似してみえるかもしれないが、異なるものである。電子マネーは発行元が存在しており、預託された現金の対価として発行されるが、仮想通貨は既述の通り、単独の発行元が存在しているわけではなく、競争的なマイニングなどの行為によって発行されている。

 この間、中央銀行は、こうした仮想通貨に対して非常に強い関心を持って対応している。中央銀行としての責務を果たすために新しいブロックチェーン技術を理解しなければならないとの認識から各国中央銀行と連携したり、民間専門家とのアクセラレータープログラムを活用するなどにより実証実験を行っている。

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