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英国海兵隊に学ぶリスクマネジメント

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現場へ権限委譲、軍の改革がモデルに

マッキニーロジャーズ アジア太平洋代表パートナー 岩本仁氏

源流は19世紀プロイセン生まれの理論

大英帝国以来の戦歴の蓄積が英国軍の組織づくりに生かされている 大英帝国以来の戦歴の蓄積が英国軍の組織づくりに生かされている

 統一ドイツの礎となったプロイセン王国。ミッションリーダーシップのルーツは19世紀はじめのプロイセン軍の軍制改革にある。ナポレオンの仏軍に一時は国土を制圧されたプロイセンは、戦後に敗因分析を徹底。前線指揮官への権限委譲を柱とした柔軟な部隊運用理論を編み出した。

 20世紀、世界は2度の大戦で物量を重視する総力戦を経験。軍隊はおのずと中央集権的な運用に傾いた。Command and Control(C&C)と言われ、東西冷戦下でも主流の座が続いた。ドイツが敗戦国となったことも、プロイセン式の理論が顧みられなくなることを助長した。

 状況が変わり始めたのは1970年代の英国だった。アイルランド共和国軍(IRA)のテロが激化。都市部で一般人と見分けがつかない「見えない敵」と闘うことを余儀なくされ、2度の大戦を勝利に導いた戦術の多くが通用しなくなった。このころ、英国の同盟国である米国も、泥沼化するベトナム戦争に手を焼いていた。南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)のゲリラ戦術に対し、従来のC&Cだけでは限界があることがはっきりしてきた。

 このような転換期に英国軍が「再発見」したのがプロイセン式の理論だった。英米で研究され、90年代に入るとNATO(北大西洋条約機構)の新たな戦術理論「ミッションコマンド」として結実した。その導入にあたり当初から中心的な役割を担ったのが英国海兵隊だ。

 17世紀に設立された英国海兵隊は、大英帝国の版図拡大と軌を一にして軍容を変化させてきた。300年以上に渡る戦歴で組織に蓄積された経験は現代に受け継がれている。一方、IRAに始まり、現在は「イスラム国」などと対峙する対テロ戦では、思い切った改革を導入している。最善を尽くすため柔軟に変化する。このような組織のありようは企業にも求められる。ノウハウやリーダーシップを持っている元軍人が、企業から求められる理由がお分かりいただけたであろうか。

岩本 仁(いわもと じん)

マッキニーロジャーズ アジア太平洋代表パートナー

ブーズ・アレン&ハミルトンを経て、シック米国本社グローバルビジネスディレクター、シック・アジア太平洋担当VP 兼シックジャパン社長、MHD ディアジオ・モエ・ヘネシー社長兼CEO 等、15年に渡り経営最前線を指揮。2008年10月より現職。グローバル企業の組織変革のプロフェッショナルとして、特にM&A後、JV等、複雑な組織のマネジメントに精通。過去に東京工業大学空手部コーチや世田谷区立八幡小学校PTA会長など、コミュニティ活動にも積極的に関与。東京工業大学情報科学科卒業。

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