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英国海兵隊に学ぶリスクマネジメント

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現場へ権限委譲、軍の改革がモデルに

マッキニーロジャーズ アジア太平洋代表パートナー 岩本仁氏

ミッション遂行、原動力はビジョン

 ミッションリーダーシップは最初に、簡潔で夢のあるビジョンを組織全体に掲げる。この企業の場合「顧客が安心できる低価格の実現」がビジョンとなった。

 ビジョンはミッションを与えられた現場の「なぜ」への答えでもある。納得できる答えを示さないまま、困難なミッションを課すことは兵士のモチベーションを著しく下げる。銃弾が飛び交う中でも部下に進軍を命じなければならない戦場では、このロジックがリーダーのよりどころになってきた。

 この企業の現場に課せられた最大のミッションは、調剤薬局の薬価低減だ。そこからミッションは次のステップに移る。薬価低減を実現するためにはどうすればよいのか。ここでは値下げ交渉の徹底や、調剤薬局の顧客に他の買い物を促すための売り場の連携が考えられた。次は、売り場を連携させるには店内の動線をどう変えればよいか...などと段階を追って細分化する。下層のミッションに対し、上層に行くほど「なぜ」への答えになっているのがミッションリーダーシップの特徴だ。

 ここで思い出していただきたいことが一つある。前回に説明した軍隊式の思考法「自由と制約」のことだ。部下にミッションを下す際、守らなければならない制約を明示する。その上でミッション達成の手段・方法は現場の裁量に任せる。例えば、店内の動線変更などは店の実情をよく知る現場のリーダーやスタッフが独自に判断した方が成功しやすい。
 
 この企業の売り場改革は成功したが、現場の店舗に「自由」を与えないまま、本部主導であらゆる決定を下していたら失敗していたかもしれない。経営環境が短期間で目まぐるしく変化する今日、小回りの利かない巨艦企業ほど上意下達の命令系統が効果を生みにくくなっている。明確なビジョンに基づくミッションリーダーシップを活用し、組織の隅々まで自ら考えて動く仕組みが求められる。

 このようにミッションリーダーシップは、危機を乗り切るため現場に権限を委譲する考え方だ。軍隊の世界で長い間蓄積された理論がベースになっている。軍隊こそトップダウンや縦割り構造の象徴のように思われている読者には意外かもしれない。だが、歴史をひもといてみれば納得できる。20世紀後半、世界の戦場では大きな変化があった。その結果、ミッションリーダーシップにつながる軍の運用改革が進んだのだ。

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