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英国海兵隊に学ぶリスクマネジメント

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現場へ権限委譲、軍の改革がモデルに

マッキニーロジャーズ アジア太平洋代表パートナー 岩本仁氏

 米トランプ大統領が暴走しないよう「手綱」を引くケリー首席補佐官やマティス国防長官。ウォルマートの米国部門を改革した元CEOのビル・サイモン氏や米リーバイスをよみがえらせたチップ・バーグCEO。彼らに共通するのは元軍人の肩書だ。海外では元軍人が政治経済の要職に就き、マネジメントの力を発揮することが珍しくない。企業のガバナンスに、現場への権限委譲を柱とする改革が注目されている。

欧米企業は元軍人を即戦力として採用

英王室の王子らが入校することでも知られる海軍兵学校(デヴォン州ダートマス) 英王室の王子らが入校することでも知られる海軍兵学校(デヴォン州ダートマス)

 WEST POINT、ANNAPOLIS、SANDHURST...。グローバル企業の経営陣の経歴を読み込むと、日本人に聞き慣れない校名が出てくることがある。有名大学でもリベラル・アーツ・カレッジでもない。士官学校の卒業生である証しだ。欧米では元軍人が当たり前のように企業で要職を担っている。日本企業に勤めていると実感が湧かないかもしれないが、軍隊は企業にとって人材供給源なのだ。

 米国のパウエル元国務長官のように、有力スタートアップの役員になった大物もいる。元将官が名誉職的な位置付けで大企業の役員に迎えられるケースもある。だが、圧倒的に多いのは主に大佐など佐官クラスを経験して転職する30~40代だ。彼らは現場の即戦力として企業に受け入れられている。

 企業が彼らに最も期待する力は、時間を浪費せずに組織を動かすリーダーシップだ。戦場のサバイバルで磨かれた柔軟性と協調性がビジネスでも役立つ。特に、かじ取りが難しい巨艦企業の針路修正などに力を発揮する。

 私の参画するコンサルティング会社、英マッキニーロジャーズが支援した一例を紹介したい。グローバル大手小売チェーンの販売改革のケースだ。世界に3000を超す大型店を含む複数のフォーマットを展開し、マネジメント層などに元軍人が多く在席している。

 リーマン・ショック後の景気低迷期、この企業は米国の大型店内の調剤薬局の販売価格を大幅に下げる集客戦略を立てた。そのためにジェネリック(後発薬)への転換を徹底。政府が価格決定権を持つ日本と違い、米国では製薬会社が薬価を決めるので、調達先との値下げ交渉を徹底した。だが、値下げだけに頼るのは限界がある。値下げした医薬品を呼び水に、食品や衣料品などの売り場が連携して、店舗トータルで販売を増やさなければ収益を確保できない。

 売り場改革に時間がかかれば損失が膨らむ。全店で一気に進めなければならない。この時、力を発揮した思考法がある。軍隊の戦術理論を応用したミッションリーダーシップだ。

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