日本経済新聞 関連サイト

中小企業の「見つめ直す経営」

記事一覧

人事制度でデザイナーの理想像示す~マルキンアド~

日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員 藤田 一郎氏

 田畑が広がるのどかな地域に、印刷工場を改修し外壁を黒く塗った、異彩を放つ建物があります。群馬県富岡市で広告デザインなどを手がけるマルキンアドの本社です。優れたデザインを生み出してきた実績から、同社の顧客は100キロメートルも離れた東京に多く、同社を志望するデザイナーが全国から集まるといいます。

製造から創造へ

マルキンアドの本社 マルキンアドの本社

 同社は、企業の広告の企画・制作、ウェブサイトの構築・運用、ブランディング、イベントの運営などを手がけています。とりわけ、デジタル・アナログを問わず多様なオーダーにこたえる柔軟な発想力とデザインの提案力には定評があります。

 同社の起こりは、1973年に山田勝博社長の父が立ち上げた印刷会社でした。県内企業のパンフレットやチラシの製造業が主な仕事です。山田社長は、イベント企画会社でデザイナーとしてキャリアを積んでいましたが、96年に父の他界を機に、同社を継ぎました。

 当時はバブル崩壊後で、コストカットが叫ばれていた時代です。広告宣伝費は真っ先に削減の対象となりました。とはいえ、取引先からの値下げ要求に応じてしまえば、利益は出ません。そこで同社は、すでに仕様が固まった印刷物の製造で勝負するのではなく、デザイン力を伸ばして付加価値を創造し、他社との差別化を図ることにしました。

 最新鋭のパソコンや描画・画像編集ソフトを導入し、併せて経験豊富なデザイナーや、CGに詳しい若者の採用を進めたのです。一方で、父がそろえた印刷機はすべて手放し、製造業務は外注することに。退路を断ち、会社が生まれ変わる覚悟を内外に示したのでした。

 折しも、デジタルコンテンツの重要性が認識され始めた時代です。この戦略は当たり、取引先を広げていきました。

従業員の距離を縮める仕掛け

 同時に、課題も浮かんできました。従業員間のコミュニケーションがうまくいかなくなったのです。デザイナーの仕事は領域が広く、それぞれに深い専門性があります。1人で考え、パソコンに向かう時間が長いうえに、転職も多く、互いがどんな仕事をしているのかが見えにくくなっていたようでした。

 同社は対策として、2つの制度を導入しました。1つは「ハッピーランチ制度」です。月に1回、くじ引きで4人組をつくり、昼食を共にします。代金はすべて、会社の負担。所属の垣根を越えて、仕事の成功体験や悩みを共有してもらうのが狙いです。

 もう1つは、勤続年数に応じて休日を付与する「長期休暇制度」です。期間は最長で1カ月に上り、しかも最高10万円程度の奨励金を支給します。仕事を忘れ、旅行に出かけるなどして見聞を深めてもらうのが目的です。

PICKUP[PR]