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英国海兵隊に学ぶリスクマネジメント

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北朝鮮ミサイル飛来 その時わが社は

マッキニーロジャーズ アジア太平洋代表パートナー 岩本仁氏

軍隊的思考の習慣化が会社を救う

 リチャードの部隊の場合、「自由」はイラク上陸と目的地到達のための手段であった。つまり、経路や方法は現場の判断で自由に変更することができた。「制約」はイランへの対応だ。イランに対して応戦すれば、相手がひるんだ隙に脱出できるかもしれない。最前線の部隊が駆られやすい誘惑だが、リチャードは陥ることがなかった。なぜなら「制約」の理由を深く理解していたからだ。

 この時、静観していたイランを戦争に引きずり込む恐れがある瀬戸際だったのだ。もしそうなれば、目の前の作戦どころか戦争に勝つ(イラクのフセイン政権を打倒する)という大目標の達成までも危うくなる。リチャードは、このような政治的・戦略的な視点を軍上層部と共有していた。だから自分たちの身に危険が迫る中でも「制約」を守りながら作戦を遂行することができた。

 「自由と制約」は先に例示した企業のM&Aをはじめとする経営問題や、大災害からの復旧でも役立つ思考法だろう。危機への対処をどこから進めればよいのか。どうすれば一番効果的なのか。短時間で決断しなければならない時ほどミスもしやすいが、「自由と制約」の思考を習慣化していれば防ぐことができる。

 「最初の一撃でプランが変わる」。マッキニーロジャーズの創立者で元英国海兵隊将校のダミアン・マッキニーの言葉だ。戦場がプラン通りにならないことは自明の理。このことを常識として組織で共有しなければ生き残ることは難しい。リスクに立ち向かう企業にも同様の心構えが必要なのではなかろうか。

 この連載では、英国海兵隊式のリスクマネジメントを企業が導入する意義や効果について具体的な事例を交えながら紹介して行きたい。次回は、なぜ今このような軍隊式の訓練や思考が民間でも注目されているのか、歴史的経緯も含めてひもといていきたいと思う。

岩本 仁(いわもと じん)

マッキニーロジャーズ アジア太平洋代表パートナー

ブーズ・アレン&ハミルトンを経て、シック米国本社グローバルビジネスディレクター、シック・アジア太平洋担当VP 兼シックジャパン社長、MHD ディアジオ・モエ・ヘネシー社長兼CEO 等、15年に渡り経営最前線を指揮。2008年10月より現職。グローバル企業の組織変革のプロフェッショナルとして、特にM&A後、JV等、複雑な組織のマネジメントに精通。過去に東京工業大学空手部コーチや世田谷区立八幡小学校PTA会長など、コミュニティ活動にも積極的に関与。東京工業大学情報科学科卒業。

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