日本経済新聞 関連サイト

なぜ中国人は財布を持たないのか

記事一覧

路上生活者もQRコードを持つ現金不要の中国

中島恵 氏

 2017年4月、上海市内の日系企業で働く20代半ばの女性、洪雅琳氏にキャッシュレス生活について話を聞いてみた。

「現金......ですか? 春節のときに1000元(約1万6000円)下ろしましたが、2カ月以上経ってもまだ手元に200元くらい残っています。レストランでも、コンビニでもほとんどウィーチャットペイなので、現金はなかなか減らないんです」

 上海の20代の若者の間ではこうした状況は珍しくない。銀行はもちろん、ATMに並ぶこともなくなった。別の人に聞いたが、銀行に行くのはスマホが使えない老人だけで、しかも銀行が混んでいるのは年金支給日だけになったそうだ。

 隣で聞いていた同世代の同僚の男性、馮立氏もこういう。

「僕たちも同じですよ。もう2週間以上、現金は一元も使っていませんね。通勤でシェア自転車を使っていますが、ウィーチャットペイで支払うので小銭を持つ必要はないんです。送金も一元単位でできますから、割り勘の食事でも利用できて便利です」

 後輩の王嘉偉氏もうなずきながら、「両親は田舎でまだ現金を使っていますが、この便利さを早く知ってほしい」とつけ加えつつ、「上海では路上生活者もQRコードを持ち歩いているっていう噂ですよ。だって誰も小銭を持っていませんから」と語る。

 上海の地下鉄の車内や駅では、今も路上生活者を見かける。彼らは現金を入れてもらう缶を地面に置いたり、持って歩いたりしているが、スマホ決済を導入しているというのだ。驚いたが、考えられなくもない。現場は確かめられなかったが、中国のネットでQRコードを首からぶら下げている彼らの写真を見つけることができた。

 17年の春から夏にかけて、私は広州、深セン、東莞、上海、杭州、北京、大連などを取材して歩いたが、どこに行ってもシェア自転車とスマホ決済の波に圧倒された。そして各地で出会った中国人が口にした言葉は「現金は不便、スマホ決済のほうが圧倒的に便利」だった。

 日本でもクレジットカードやデビットカード、JRの「SUICA」「ICOCA」のような電子マネーは頻繁に使う。ポイントを溜めたいときや小銭を用意する必要がないので便利だが、日本の場合、日常生活での支払いは現金が多い。特別な状況を除いて、現金を不便と感じる人はめったにいないだろう。

 それなのに、なぜ多くの中国人は「現金は不便」だと感じるのか。その思いがあるからこそ中国でスマホ決済が生まれ、ここまで急速に浸透したのではないか。そんな疑問が私の中で急速に持ち上がってきた。

 そして、前回紹介した、中国人の友人の言葉を思い出した。今の中国のシェア自転車やスマホ決済の発展ぶりを見て、日中のどちらが遅れている、進んでいる、と判断するのは一面的な見方ではないか、と指摘した人だ。

この記事は会員限定コンテンツです。
続きを読むには、日経BizGateに会員登録(無料)してください。

最初に日経IDを取得し、その後日経BizGateに利用登録します。
おすすめ記事やキャンペーンをお知らせするメールマガジンもご利用ください。

すでに登録済みの方はログインしてください。

今すぐ登録 ログイン

PICKUP[PR]