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AIを「使ってはいけない」作業とは?

ローランド・ベルガー日本法人 代表取締役社長 長島 聡氏

 日本の生産現場には優れた技を持った「匠(たくみ)」が数多く存在する。匠は新人と比べて、とてつもない数の変数の組み合わせを学んだスーパーAIに当たる。

スーパーAIの匠と変数の少ない新人

匠の技をAIに落とし込めるか 匠の技をAIに落とし込めるか

 自動車部品を製造するデンソーのある匠によると、意識している変数は600を超えるという。作業空間の温度や湿度、機械の油温、粘度、膨張度合いをはじめとして、センサーが取り付けられない部分の微妙な角度や触覚まで、無意識のうちに感じているらしい。膨大な数の変数を感知し、最適な組み合わせを探りながら、何万や何十万もの加工を行ってきたのだ。

 一方、新人はもともと装備しているセンサー(感覚)も、使えるアクチュエーター(技)も少ない。機械を動かすときには、操作盤上にずらりとボタンが並んでいても、決まりきったボタンを扱うことしかできない。これまでに加工してきた部品の点数も種類も少ないので、一定の加工はできても、複雑な加工や高い仕上げ精度は望めないのだ。AIでいえば、学習した全体像が狭く、データも少ないということになる。

 こうして考えていくと、匠の技を機械に移すのはなかなか難しそうだ。現実に、匠のようなスーパーAIマシンを用意しようとすると、天文学的な数のデータが必要になるだろう。データをゼロから取り始めるとなれば、そのためのセンサーへの投資や学習に要する時間もケタ違いになる。それを使って深層学習するコンピュータの性能も、極めて高度なものが要求されるだろう。

 さらに、コンピュータを動かすためのエネルギー量も膨大になるはずだ。実際に、コンピュータに必要となるエネルギー量は、人間が同じ答えを出すのに必要な量の数千倍とも数万倍ともいわれている。その意味では、人間は究極の省エネ・マシンなのである。

 もっとも、現在はコンピュータやセンサーの進化により、また昨今のIoTブームの中でスケールメリットが生まれ、次第に、高性能センサーなども、手の届かないコストではなくなりつつある。バイオコンピュータや量子コンピュータなど、消費電力を数千分の1にして人間と同等の消費量で処理できるコンピュータの研究も進んでいる。

 とはいえ、少なくとも今後数十年の間は、経済合理性および技術進化の観点で、何から何までAI任せにすることは不可能だと思われる。AIをアシスタントとしながら、人間の能力を伸ばすツールとして使っていくことを模索すべきなのは間違いない。

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