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マツダの対話革命「Zoom-Zoom」

ローランド・ベルガー日本法人 代表取締役社長 長島 聡氏

 そして、これは従業員同士だけではなく、従業員とユーザーとの対話へと発展させるポテンシャルを持っている。すでに行われてきた販売店の営業担当者とユーザーの対話に加えて、商品開発部門を始めとするさまざまな部門とユーザーとの対話を生み出すきっかけとなり、ユーザーとのより深い関係の構築へとつながっていくだろう。

マツダのブランドコンセプト「Zoom-Zoom」

これまで想定できなかった深いレベルへ

 最初は自分の会社や組織など、閉じた世界での対話を進め、自社のサービスや製品を高度化していくとしても、次第に顧客など外部との接点を増やし、対話の場をオープンにしなければならない。

 製品を設計して生産して顧客に届けるという一連の流れを1社だけで完結することはまずできない。原材料、部品、製造装置、卸売会社など、さまざまなプレイヤーとの関わりの中で、常に顧客への価値提供は行われている。したがって、周辺プレイヤーとの対話は不可欠だ。

 さらに、彼らとしっかりとタッグを組み、彼らが進める顧客との対話も活かしながら、顧客との対話の密度を高めていくことが重要だ。

 かつては想像しなかったレベルで、ステークホルダーとの対話ができるようになった。これにより、ユーザーの嗜好をより深く掘り下げられる。そして、個々の顧客にぴったりの価値とタイミングを見極め、これまでにない高いロイヤリティを生み出す施策を次々と打てるようになっているのだ。

「私が言ったから、この機能が生まれた」

 モノの消費からコトの消費へとシフトする時代では、製品や性能・機能などと同等もしくはそれ以上に、製品を使って何ができるかという体験が重視される。そうした流れの中で、ユーザーとの対話そのものが体験価値を担うようになってきた。

 従来は企業が顧客と接するのは、販売現場など川下の部分のみだった。購買情報や顧客調査などに基づいて顧客理解に努めていた。一方、顧客が開発者のことを知るのは、新聞や雑誌の記事、一部の開発ストーリーの紹介などに限られ、開発者と直接対話をする機会はほとんどなかった。

 しかし、デジタルの力を借りれば、営業担当者以外の人たち、つまり、企画、開発、生産、調達の人たちも直接ユーザーとの対話を持つことができる。しかも、さまざまなデジタル技術を用いれば、今までにはない高い頻度で対話を実現できる状況にある。

 対話を通して、ユーザーの想いを汲み取り、その情報を蓄積し、それをまた次の対話に用いて、対話の品質を高めていく。企業側はそうした対話の内容を反映させて、自社のサービスや製品を高度化していけば、より顧客にぴったり合うものがつくれるようになる。極限まで顧客の側に寄り添うことができるのだ。

 顧客の側も、こうした対話を通じて開発に携わるという経験を楽しむことができる。マス・カスタマイゼーションの域を超えて、モノづくりの設計図の段階から、もっと深い形で何がしかの影響を及ぼせるとすれば、それ自体が得難い経験になる。

 そうやって関与すれば愛着も強くなる上、「私が言ったから、この機能が積まれた」と、周囲の人に自慢することもできる。印象に残った経験は、誰かに語りたくなるのが常だからだ。結果、クチコミが広がれば、販売にもよい影響が出るのは間違いない。

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