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ロボット資本主義という悪夢を防げるか

ローランド・ベルガー日本法人 代表取締役社長 長島 聡氏

 さまざまな分野でAI(人工知能)や、あらゆるモノがネットにつながるIoTの導入が加速している。インターネットやビッグデータを活用した新サービスや、省人化や効率化によるコスト削減など、新技術への期待感は高まる一方だ。これからの時代、どの企業もAIを搭載したロボットを巧みに活用していく必要があるのは間違いないだろう。

 その一方で、AIをはじめとする機械に何もかも任せていいのか。AI化できるところすべてにAIを導入していった先には、どのような未来が待っているのだろうか。

ロボットが生む「勝ち組と負け組」

ロボットに支配される未来が来るのか ロボットに支配される未来が来るのか

 1つのシナリオとして、"ロボット資本主義"の世界が考えられる。その世界では、店舗や製造・開発現場で働く人はもはやいない。工場から直接、ロボットが注文の品やサービスを届けてくれるからだ。人は3Kと呼ばれていた業務から解放され、身体を使って汗水流すという概念がなくなる。

 自分でやることといえば、バーチャルの世界で、意図的につくられた心地よさの中で快楽に浸ること。移動やコミュニケーションにかかる時間やコストが大幅に減り、旅行もサービスも自宅に居ながらVR(バーチャル・リアリティ)やAR(拡張現実)を使って疑似体験すればいい。刺激がほしければ、バーチャル上に現れる他人と意見を戦わせたり、スリリングな身の危険を味わったりする体験がオプションで利用できる。まさに近未来を描いたSF映画『マトリックス』のような仮想現実の世界だ。

 それはそれで便利で快楽に満ちているかもしれないが、いいことばかりではない。自分の心身を使って何かをやる機会がなくなれば、人間のあらゆる能力が急速に退化していくだろう。目指すものもなく、もはや向上心を持つこともない。次第に気力が衰え、心身の健康も維持できなくなっていく。

 こうした機能を提供するロボットは高度でかつ高額だ。したがって、それを保有し操作するのは一握りの富裕層に限られる。勝ち組になる条件は、どれだけ多くのロボットを保有し、それらを儲かる場所に投入できるかだ。どの株式に投資すれば儲かるかを考えるのと同じように、どのロボットをどこに派遣するかで勝敗が決まる。一山当てれば次のロボットを購入することができ、さらに富を得る機会が広がっていく。

 ロボットを買えない貧困層には、快楽とは無縁の世界が待っている。わずかに残されたロボットが扱わない雑務で日銭を稼ぐしかない。必死に働いても、経済格差はどんどん広がっていく。持たざる者はストレスを溜め込み、ロボットの盗難やプログラムの書き換えなど犯罪行為に走るようになる......。

 待ち受けているのは、世の中を意のままに操る少数のエリート、与えられ用意された世界に甘んじる大衆層、そこからこぼれ落ちた貧困層という苛烈な格差社会である。

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