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中小企業の「見つめ直す経営」

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多能化と短時間勤務で接客力向上~お佛壇のやまき~

日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員 渡辺 綱介氏

 核家族化が進むとともに人々の生活様式や意識が変化するなか、仏壇・仏具市場は縮小しています。仏壇を置かない家庭が増えて販売数量を伸ばすことが難しくなっているうえ、小型化が進み単価も下がる傾向にあります。静岡市のお佛壇のやまきは、そうした環境下で売り上げを伸ばしてきました。

販売現場を見つめ直す

素材と加工による価格差の説明用ツール 素材と加工による価格差の説明用ツール

 同社は、仏壇と仏具、墓石などを扱い、静岡県内に6店舗を展開しています。現社長の浅野秀浩さんが入社したのは1980年代後半のこと。国内有数の仏壇の生産台数を誇り、業績好調な時期でした。その後、国内景気の悪化や海外製品の流入により暗雲が立ち込こめると、同社は1997年に海外生産を開始して生産コストを抑え、質の良い仏壇をお値打ちに提供できるよう取り組んできました。しかし、市場が縮小するなかで、販売実績は思うようにあがりません。浅野さんは2003年に社長に就任すると、小売り部門のてこ入れに乗り出しました。

 まず進めたのは、安心して購入してもらえる態勢づくり。仏壇は、木材の種類と量、彫刻などの加工具合によって価格が大きく変わります。一方、日常的に購入するものではなく、顧客にとっては価値の違いが見えにくい製品です。例えば、仏壇では芯材として合板などを用い、その上に黒檀材などの表面材を貼り付ける加工を施すことが一般的です。素人が一見しただけでは、厚い表面材を貼った質の高い製品なのか、ごく薄く貼った製品なのか、見分けにくいものもあります。そこにつけ込んで価値に見合わない値段で販売する業者も現れ、業界全体への信頼が揺らいでいたのです。

 同社では、小さく切り出した木材のサンプルを手に取って質感や加工の方法、価格を一目で比較できるツールを用意したり、仏壇のグレードを5段階評価してプライスカードに表示したりする工夫をこらしながら、製品の価値を的確に伝える努力を重ね、安心して仏壇を選べる店として顧客の信頼を獲得していったのです。

 次なる課題は、個々の従業員の接客技術の底上げです。取り組むうえで、浅野さんが参考にしたのは、抜群の販売成績をあげていた女性従業員でした。子育てや家事があるので、残業はほとんどせずに帰宅しています。仕事ぶりを観察させてもらうと、手際が良いだけではなく、故人の生前の様子や趣味、色の好みなども自然に聞き出し、顧客と一緒になって仏壇や仏具を選ぶことで、スムーズに案内を進めていることがわかりました。顧客もとても満足しています。

 しかし、親身な対応は言われて身につくものでもありません。そこで浅野さんは、大胆な仮説を立てます。ワーク・ライフ・バランスの実践が販売力を高める、というものです。仏壇や仏具は、亡くなった家族を弔うために購入します。自らが家族と過ごす時間を大切にし、家族の絆を感じながら日々を送っているからこそ、遺族を弔うお客さまに心から寄り添えるようになると考えたのです。

全従業員を多能化

 浅野さんは2008年にワーク・ライフ・バランスを自社の重点方針に据え、残業は月に10時間以内、20日間の有給休暇の全取得を目標に据えました。

 当時、現場は混乱したそうです。各店舗は店長と営業担当、販売担当、レジ担当の4人体制で運営しています。基本的には縦割りで、レジ担当は、宗派に則した仏具を提案するなどの専門的な対応はできませんでした。そのため、来客があれば販売担当が昼休みを中断して対応に戻らなければならなかったり、来客が重なってお客さまに待ってもらったりする状況が生じていました。休暇を取るどころではなかったのです。

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