日本経済新聞 関連サイト

FIN/SUM WEEK 2017 レビュー

記事一覧

フィンテック、「資産形成層」拡大の契機に

3割減る老後の金融資産、拡大する格差に対応できるか ~QUICK資産運用討論会

金融庁の油布志行参事官 金融庁の油布志行参事官

 藤野 日本の個人金融資産1800兆円のうち1000兆円は現預金ですが、米国では過半が投資に回っています。一方、寄付は米国の1人あたり年間13万円に対して日本が2500円。先進国最低クラスです。教育にかけるおカネも先進国では下。自分の会社が好きかという質問に60%が「嫌い」と答え、調査60カ国で一番低い値でした。欧米資本主義と異なり日本はおカネに清く助け合い・愛社精神で満ちているというのが一般的に語られる日本人像ですが、実体は助け合いが嫌いでがめつく蓄えることに走っているわけです。

 なぜ、こうなったのでしょうか。理由のひとつには20年に及ぶデフレの影響があげられます。投資や挑戦が報われず、なにもせず貯めるだけの人が優位の状況が続きました。いまの日本人には、失敗してもいいから一生懸命がんばって何かをやろうという「希望最大化」を目指すタイプと、勉強してもどうせ失敗する、英語も挫折する、投資も失敗する、だから挑戦やめよう、転職・変化やめよう、結婚やめよう...と考える「失望最小化」志向に分かれます。いまの日本人の8割を占めるのが後者で、このマイナス志向を元に戻さないといけません。

ロフトワークの林千晶代表取締役 ロフトワークの林千晶代表取締役

  金融への不信感やだまされるというよりは、金融とはどうせ関係がない、距離が遠い、あるいは接点がない、といった印象を抱いています。新聞紙面で金融の文字がでてきたらさあ飛ばそう、という感じ。専門的な内容がわかっていないと関われない、まとまった大金がないと相手にされないという意識があり、積極的に嫌いというのではなく消極的に避けているというイメージです。

 また、投信購入を例にあげると、少しばかりのおカネを増やす割には手続きなどの作業が多くて面倒です。さらに、どこに何のためにおカネを投じているのかわからず、投資をしていることのリアリティーが沸いてきません。自分はクラウドファンディングをやっていますが、応援したい会社が成果を出すと喜びを感じますね。

 チャップマン 手続きが面倒ということもあるし、もうひとつはアクセシビリティーというか、参加しやすそうな雰囲気が醸成されていません。また、銀行の支店などではいまだ、きょう売る商品がこれ、と決まっているところがあり、自分が望まない商品を押しつけられる可能性があります。顧客本位ではなく、信頼しにくい面があります。

 油布 投資家側の成功体験が少ないせいもありますが、金融機関のビジネス姿勢によって資本市場が長期的な信頼を勝ち得ていないことはたしかでしょう。事実、とうてい高齢者向けとは思えないようなボラティリティーも手数料も高い商品を買っていた親戚がいました。米国の投信規模約1800兆円に対して日本の公募投信は約100兆円。日本に伸びしろがあるようにも思えますが、金融機関が短期的収益を追う姿勢を改めないと、金融のリテール市場は伸びません。

 藤野 金融機関のビジネスは団塊世代に寄り添い、それに向き合う体制を組んできました。いまなら退職金がターゲットです。人口動態では20%に過ぎないこの世代に資産が集中し、ビジネスとして動くには効率的です。しかし、60代以上は10年たつと3割の方が亡くなってしまいます。一方、資産形成層は給与口座だけ作ってもらい退職まで待っていればよいという位置づけです。

 この結果、相続が生じると、株式や投信などが現金化されたまま投資商品に還流してこない状況が起こっています。「貯蓄から投資」が現実には「投資から貯蓄」になっている一因です。金融機関が資産形成層に対するアプローチを変えていかないと将来ビジネスの機会がなくなるかもしれません。森信親金融庁長官がこのままでは10年後にえらいことになると口やかましくおっしゃっていますが、森長官は10年後の世界から送り込まれた『ターミネーター』のような存在というべきで、金融機関は危機感をもって耳を傾けるべきでしょう。

  金融までの距離がなぜ遠く感じるのか、相手にされない、と思ってきたことが腑に落ちた気がしますね。

PICKUP[PR]