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フィンテック キーパーソンに聞く

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「地域に寄り添い、地域を守る」フィンテックつくる

農林中央金庫 執行役員 デジタルイノベーション推進部長 荻野浩輝氏

 フィンテック(金融とテクノロジーの融合)をテーマとするグローバルイベント「FIN/SUM WEEK 2017」の開催を機に、参加団体のキーパーソンに注目テーマや最新動向、新分野を切り開く意気込みを聞いた。農林中央金庫 デジタルイノベーション推進部長の荻野浩輝氏は銀行・金融業界だけでなく物流や第一次産業など幅広い分野に変革をもたらすフィンテックの可能性を高く評価しながら、地域を守る視点で活用していくと強調する。

地域貢献とデジタルへの思いを胸に初代部長に就任

 農業協同組合(JA)などにより構成されるJAバンクの全国組織である農林中金の市場運用資産規模は、実に約70兆円にも上る。国内最大級の機関投資家である農林中金がフィンテックに熱いまなざしを向け始めた。今年7月、金庫内に「デジタルイノベーション推進部」を設置、荻野氏が初代の部長に就任した。

農林中央金庫 執行役員 デジタルイノベーション推進部長 荻野浩輝氏 農林中央金庫 執行役員 デジタルイノベーション推進部長 荻野浩輝氏

 「グループ内でフィンテックが話題に上り始めたのは2年ほど前。最初は関係する部署から人を集めたワーキンググループで週1回話し合っていたのですが、本格的に動かなくてはならないと判断してフィンテックの専門組織を設けました。組合員の農家から『農業法人のバックオフィス業務をフィンテックで効率化できないか』と言った声が寄せられるなど、フィンテックへの関心は徐々に高まってきています」

 1965年愛知県生まれ。同志社大卒業後、農林中金に入庫。システム企画部や企画管理部経営データ統括室など主にシステム部門を歩いてきた。デジタルイノベーション推進部長の直前の役職は企画管理部部長(データマネジメント担当)。

 就職にあたり農林中金を志望した理由は、社会や地域に貢献する特別な使命を持つカッコよさに強く惹かれたから。その思いは、東日本大震災や熊本地震後にJAバンクが行った支援を通じてより強くなった。実際、JAバンクは計100台程度の移動店舗車両を導入する計画に取り組んでいる。移動店舗車両では貯金の入出金などの金融業務が可能で、地震などで支店やATMが被災した際には周辺地域から支援に向かえるほか、普段は店舗のない過疎地を巡ることで、顧客の利便性を高めるのが目的。全国規模の金融グループが移動店舗を大規模に導入する珍しいケースだ。「東日本大震災の時に移動店舗車両が威力を発揮し、実際に被災地からは感謝の声が多く寄せられました。地域に貢献し、地域を守るというJAバンクの存在意義を改めて感じました」。

 業務システムや経営データ管理など、主に社内に向けていた目を外に向ける。「インターネットビジネスに直接関わるのは2000年に米カリフォルニア大に留学して以来です。当時の米国はシリコンバレーを中心したネットバブル・ITバブルの絶頂期で、グーグルやアマゾンなどのITベンチャーの急成長を目の当たりにするなど、いろいろ勉強になりました。その体験をようやく活かせるとワクワクしています」。

 インターネットビジネスの可能性を考えるには柔軟な思考が必要だ。現状で便利だと感じられる状態がそのまま未来も続くとは限らない。むしろ未整備で不便な状況が一気に飛躍を遂げるきっかけになるかもしれない。

 「留学で暮らした2年間の米国生活が考え方の根底になっています。金融サービス面でみると、日本はインフラが高度に整っています。それに比べて米国はインフラが整備されていないところがあり、人々がストレスを感じていただけに、いち早くオンラインバンキングに取り組むことができた。デジタル化には現状を大きくひっくり返す力がある。巨大なITビジネスが形成された今後は、イノベーションが求められる時代です。どんな新ビジネスが出現するかは予想がつきませんし、予想がつくものは大したものではありません。今年、誕生10年を迎えたiPhoneを例にとると、アップルは顧客やユーザーが求めるものを作ったのではないはずです。ユーザーがどう使うか分からないけれども、必ず世の中を変えていくと考えたのでしょう。フィンテックも世間に知られ始めてまだ数年ですが、これから生まれるものは世の中を大きく変える可能性があります」。

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