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経営層のための「稼ぐ力」を高める不動産戦略

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日本企業は海外子会社のガバナンスに弱い?

JLL 執行役員 コーポレート営業本部長 佐藤 俊朗氏

 今、殊更に、企業のグローバルな不動産管理にコーポレートガバナンス(企業統治)が問われていると痛感させられます。6割に迫る海外売上比率と同様、2016年度の日本企業の海外企業M&A(合併・買収)額は11兆円弱と過去最高を更新しました。一方で、買収した企業を含め、日本企業の海外子会社の巨額損失が、日本で積み上げてきた信用を一気に失墜させるような事態が頻発しています。

 日本では経済全体の課題として、企業の「稼ぐ力」を強くするためのコーポレートガバナンス向上が推進されています。各企業は、経営の妥当性や透明性を高めるために社外の知見を取り入れ、また「稼ぐ力」の指標の1つであるROE(自己資本利益率)向上などの具体策を打ち出していますが、M&Aでの買収先のみならず、グループの海外子会社まではうまく統治できていない実態があるのではないでしょうか。

 オフィス、工場等の不動産は企業の「稼ぐ力」を支えるインフラです。そのコストや資産としての大きさから、コントロールを失うと財務会計上のリスクが蓄積し、ROEの低下、損失拡大等、企業全体の価値を大きく下げてしまう引き金となり得ます。

 しかし、ほとんどの日本企業では、海外子会社の不動産を管理する仕組みや体制が構築されていないためガバナンス(統治)が効かせられないのです。一方で、グローバル企業が不動産管理においても真剣にガバナンス体制を構築している理由を知ると、日本企業の現状にヒヤリとさせられます。

横断的なガバナンスに弱いメーカーの構造とカルチャー

海外拠点の不動産管理の課題は多い(米ロサンゼルス) 海外拠点の不動産管理の課題は多い(米ロサンゼルス)

 日本メーカーの海外事業拡大はとどまるところを知りません。商品、サービス、コンテンツの競争力とその生産力は健在です。世界の経済トレンドに合わせ、コスト競争力と利益確保のために生産、販売、物流のロケーションをグローバルレベルで巧みに変化させ拡大を続けています。しかし、それはよく見ると事業部単位の動きが多く、事業活動に必要な不動産の管理もばらばらに行われてきた歴史があります。

 日本メーカーの多くは、海外でも日本国内同様に事業部制、カンパニー制に基づき事業を展開しています。それぞれの事業部門において拠点管理を行い、同じグループでありながら同じ都市内でも複数拠点に分散しています。ニューヨーク、ロサンゼルス、シリコンバレー、上海、ロンドン、シンガポール、インド等のビジネスハブとなる地域では、同じ企業グループで連結対象だけでも数十拠点に分散している企業も少なくありません。

 あまりに非効率な拠点の分散状況に、過去にグループシナジー向上とコスト削減のために分散拠点を集約しようと試みた日本の企業は多々あります。しかし、社長名で拠点統合の推進通達をしても足並みがそろわず、大規模な拠点統合の多くが実現しないのです。権限を持った強力な推進役、体制や確立されたプロセスが無く、ガバナンスが効かないのです。

 かつて、ある日系電機メーカー統括会社の新設シェアードサービス部門の米国人責任者が、米西海岸で半径50キロ圏内に分散した約30拠点のキャンパス統合を進めようとしたことがありました。M&Aでグループ企業となった数社を含め、それぞれ独自に主張、統合を回避しようとする十数社の子会社との折衝が頓挫し、「ボディーはたくさんあるが、ヘッド(頭)がないことが日本企業の根深い問題だ」と嘆いていました。

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