日本経済新聞 関連サイト

泉田良輔の「新・日本産業鳥瞰図」

記事一覧

三菱UFJのフィンテック新会社、狙いは異業種対抗

GFリサーチ 泉田良輔氏

真の脅威は金融機関の決済がメジャーでなくなる時代

 しかし、JDDが乗り越えるべきハードルは高い。特に指摘しておきたいのは、金融機関主導の決済システムが、将来にわたり盤石なものである保証はもうないことだ。

 日本の一般消費者にとって最も身近な決済手段は現金だが、それ以外では、プリペイドカード(電子マネー)やクレジットカードだろう[3]。ほかにもTポイントのような複数の企業で横断的に使えるポイントサービスが決済に使われている。

 プリペイドカードとしては、東日本旅客鉄道(JR東日本)が運営するスイカ(Suica)、鉄道事業者11社およびバス事業者19社が運営するパスモ(PASMO)、イオングループが運営するワオン(WAON)、セブン・カードサービスが運営するナナコ(nanaco)といったものを思い浮かべる人は多いのではないだろうか。

 例えば、スイカの発行枚数は6398万枚(2017年3月)[4]、Tカードの会員数は6373万人(2017年7月末)[5]、ワオンの累計発行枚数は5610万枚(2017年2月)[6]、ナナコの会員数は5350万人(2017年2月)[7]となっている。

 メガバンク最大手である三菱東京UFJ銀行の口座数が約4000万であることを考えれば、プリペイドカードやポイントカードの発行枚数の規模をイメージしていただけると思う。

 もちろん、プリペイドカードには利用制限がある。キャッシュカードのように現金は引き出せないし、クレジットカードより利用限度額は小さい。例えば、スイカは2万円までしかチャージできない[8]

 しかし、これだけの規模に成長したプリペイドカードを運営する事業者のコア事業は鉄道や小売りである。それら企業はプリペイドカードを発行することで、「乗車」や「買い物」における小口決済の利便性を高めることで一般消費者との接点を増やしたいという戦略がある。

 銀行にとってこれは大きな脅威である。必ずしも銀行口座とひも付いていないプリペイドカードがより便利になっていくと、一般消費者向けの決済システムから銀行が閉め出されてしまう。

 個人の給与は銀行振り込みがほとんどだと思われるが、商品やサービスの代金の支払いに銀行振り込みを使うことは少ない。また、最近の超低金利によって、預金の利子として受け取れる金額は微々たるものだ。

 であれば、預金よりも、プリペイドカードなどにチャージをしておいて乗車や買い物に使う方が現金に比べて使い勝手がよく、チャージに使えるポイントも手にすることができる。

 例えば、ECサイト大手のアマゾンでは、Amazonギフト券チャージタイプで、現金で残高追加するたびにポイントが貯まる仕組みになっている[9]。例えば、9万円以上の1回のチャージでは、通常会員は2%、プライム会員であれば2.5%のポイントが付与される。

 つまり、毎月アマゾンで買い物をする人は、銀行に預金をしておくよりもお得である。ここで、一般消費者がAmazonギフト券を利用するケースでは銀行は決済に関与できず、一般消費者に対する決済の接点を失うことに注意されたい。

異業種との競争に打ち勝つ必要がある

 プリペイドカードと利用方法が似ており銀行が一般消費者と接点を持つ決済手段といえば、デビットカードであるが、国内では残念ながらその普及は今後に期待するという状況である。

 また、デビットカードが利用する決済システムは、Visaやマスターカードといった国際ブランドとよばれる金融機関ではない決済会社によるものである。一般消費者の決済においては意外にも銀行などの金融機関が関与しているシステムは多くない。

 その流れが、これから迎えるIoTの時代にも引き継がれてしまっては、銀行が一般消費者の決済システムで巻き返しを図ることはかなり困難であろう。JDDの設立は、そうした個人の決済システムを銀行へ戻すための足がかりになるはずのもので、それだからこそ前述したように力が入っている。

PICKUP[PR]