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超入門 資本論

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自分はつぶしがきかないと思い込んでいないか

経済入門書作家、経済ジャーナリスト 木暮 太一氏

自分の仕事を2種類に分けて考える

 仕事の意味を自問する際に役立つのが、抽象化です。日々行っている仕事の具体的な内容ではなく、それを一歩引いたところから見て、抽象的に考えるのです。

 マルクスは、労働をふたつの考え方に分けていました。人間の労働には、ふたつの捉え方があるということです。そのふたつとは、「具体的有用労働」「抽象的人間労働」です。

 「具体的有用労働」とは、「具体的な仕事、作業、動作」のことです。

人間が働く場合、何か具体的な動作をしていますね。たとえば靴をつくる労働、パンをつくる労働、人形をつくる労働など。商品によって、形状や機能が違います。それは、それをつくる際の具体的な動作、作業内容が違うからです。そして、具体的な動作、作業内容が違うから、その商品が持つ使用価値が変わります。

 つまり、人間が労働するときには、具体的に商品を形づくるという意味合いがあり、それが使用価値をつくり上げているのです。この具体的な動作を「具体的有用労働」といいます。

 一方で、労働には、「抽象的人間労働」という側面があります。

 いまの「具体的人間労働」に対し、「単にエネルギーを使う」という意味での労働を「抽象的人間労働」と言います。人間が労働するということは、いずれにしても、その人が労力を費やしているということです。『資本論』の立場では、「労力(人の手)がかかっている=〝価値〟がある」です。

 どんな仕事も、具体的に考えると違う作業をしています。ですが、抽象的に考えれば「商品に価値を与えている」という意味で共通しています。そういう意味で、何も意味がない労働はないのです。

 同じように、自分の仕事を、具体的な作業内容から切り離し、視野を拡げて抽象的に捉えることができます。

 たとえば、具体的な作業内容としては、「DMを送る作業」でも、視野を広げれば「お客様との関係を築く行為」になります。具体的には「ルート営業」でも、視野を広げれば「その地域のファンを増やす行為」かもしれません。具体的には「資料づくり」でも、視野を広げれば「『どんな要素があれば、顧客が購入を判断するか』を、試行錯誤で探している行為」かもしれません。

 マルクスと同様に、労働を分解して捉えてみると、新しい発見があるのではないでしょうか。

 ほとんどのビジネスは、本質的には同じです。突き詰めると、同じところにたどり着くとよく言われます。

 たとえば、ぼくは出版業界で仕事をしています。あるとき、マーケティングの専門家に対して、ぼくが本を書くにあたって大事にしていることを伝えました。すると彼は、まったく同じことがマーケティングでも大事と言いました。

 商品企画の専門家にも「売れる本と売れる商品の要素は同じですね」と言われました。

 つまり、自分が身につけてきた能力は、突き詰めると他の業界と同じ要素にいき着くのです。

 つまり、他の業界でも使えるスキル・知識なのです。

 もちろん表面的には違う仕事なので、一見違うことをしているように感じます。ですが、本当は同じこと、他の業界でも使えることなのです。

 自分が仕事を通じて身につけた能力・知識・スキルは、どのように他の業界と同じなのか、どうすれば応用できるのかを考えなければいけません。そうすることで、みなさんは他の選択肢を持つことができます。

POINT

自分の仕事を目の前の作業内容から切り離して、どう役立っているのかを考え、他の業界でも応用できるスキルに変える。

木暮 太一 著 『超入門 資本論』(日本経済新聞出版社、2017年)、第7章「『資本論』で読むこの世を生き抜く3つの方法」から

木暮 太一(こぐれ たいち)

経済入門書作家、経済ジャーナリスト
1977年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、富士フイルム、サイバーエージェント、リクルートを経て独立。企業や大学での講演も多数。主な著書に『カイジ「命より重い!」お金の話』『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』『今までで一番やさしい経済の教科書』『「自分の言葉」で人を動かす』『社会人のためのやりなおし経済学』『アダム・スミス ぼくらはいかに働き、いかに生きるべきか』など。

超入門 資本論

木暮 太一 著
出版:日本経済新聞出版社
価格:918円(税込)

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