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米政権への信任低下でドルは年内小幅な動きか

経済アナリスト 田嶋智太郎氏

米当局はあくまでタカ派的でドル下値は限られる

 とまれ、当面はドルの下値というのもおのずと限られてくるだろう。なにしろ、FRBは、足下で金融政策の"正常化"に向けてのステップを着実に踏んでいる。その一環として、市場では「9月のFOMCでバランスシート縮小を開始する決定がくだされる」と見込む向きが今のところ多い。この「バランスシート縮小」という対応は、決して「追加利上げ」に劣後するものではない。むしろ、タイミングとしては本来「バランスシート縮小」の方が優勢されるべき場面というのもあるはずである。

 振り返れば、米当局はリーマン・ショック後に米国債などを買い入れることで潤沢(じゅんたく)な資金を市中に供給する「量的金融緩和策(QE)」を極めて大胆に行い、結果としてFRBのバランスシート(=FRBが抱えるリスク資産残高)は4.5兆ドルという空前の規模にまで膨れ上がった。当然、緊急危機的対応において大量供給された資金は、事態が収拾した後において速やかに回収されるべきである。しかし、今のところ資金は1セントたりとも回収されていない。本来は回収(=バランスシート縮小)の方が優先されるべきであると思われるのに、実際に米当局がこれまで行ってきたのは政策金利の引き上げ(=利上げ)の方である。

 では、今なぜ「バランスシート縮小(開始)」なのか。それは、おそらく米政策金利が2015年12月以降に行われた計4回の利上げによって、ようやく1.00~1.25%という水準、言わば「本来のスタート地点」に到達したからなのであろう。

 思えば、いわゆるIT(情報技術)バブル崩壊後の2004年6月から2年間にわたり立て続けに実施された米利上げも、最初は1.00%からスタートして最終的に5.25%に到達することとなった。つまり、事実上の「ゼロ金利」からスタートしたこれまで4回の米利上げというのは、とりあえず「車両基地にあった列車を車内清掃のうえ出発駅のホームに入線させるプロセス」であったと考えられ、実際に「乗客を乗せて走り出す」のはこれからということになろう。

 重要なのは、市場でとかく軽視されがちな「バランスシート縮小」という政策対応は、米当局のタカ派的な姿勢を大いに反映するものであると正しく理解することである。つまり、本来これも立派な"ドル買い材料"なのであり、実際に供給された資金の回収が始まれば、米金利が徐々に強含みで推移するようになって、行く行くはそのぶんドルが買い直されやすくなって行くものと考えられる。

 総じて言えるのは、米経済の先行きを悲観する必要は決してないと思われるが、今のところ成長の度合いは極めて緩やかであり、思っていた以上に時間がかかっていることも否定できないことだ。そのうえで、改めて当面のドル(対円)の行方を想定すると、少なくとも年内の値動きは上にも下にも限られたものになる可能性が高そうである。

 より具体的な水準で言えば、それは113円辺りを中心軸として上下に各5円程度、つまりはおおむね108円から118円辺りまでの10円程度というやや限られた幅の値動きになると思われる。


田嶋 智太郎(たじま ともたろう)

1964年生まれ。慶応義塾大学卒業後、現三菱UFJモルガン・スタンレー証券勤務を経て転身。転身後は数年間、名古屋文化短期大学にて「経営学概論」「生活情報論」の講座を受け持つ。金融・経済全般から企業経営、資産運用まで幅広く分析・研究。新聞、雑誌、Webに多数連載を持つほか、講演会、セミナー、研修等の講師や、テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍中。主な著書に「財産見直しマニュアル」(ぱる出版)、「外貨でトクする本」(ダイヤモンド社)、「株に成功する技術と失敗する心理」(KKベストセラーズ)、「はじめてのFX『儲け』のコツ」(アルケミックス)、「日本経済沈没!今から資産を守る35の方法」(西東社)、「上昇する米国経済に乗って儲ける法」(自由国民社)など。

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