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IoTの勘所

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電気ポットによる高齢者見守り事業が16年続く理由

象印マホービンの事業担当者 川久保亮氏に聞く

 それには、やはりサービスの周知徹底が欠かせない。みまもりほっとラインの開発段階では、高齢者が他者に「見守り」されるという概念自体が広まっていなかった。そうした中、このサービスは高齢者の孤独死を防ぐという社会貢献の一環として位置づけられ、広告宣伝などの周知活動が行われてきた。

<b>「契約数をプラスにし続けること」が川久保氏のミッションという</b> 「契約数をプラスにし続けること」が川久保氏のミッションという

 それは、サービス自体が社会貢献であることに加え、会社をあげて社会貢献をしていることを知らしめる効果も勘案しての活動だった。時代が変わっても、みまもりほっとラインが社会貢献であることは変わらないが、そのためにも事業が持続できるように企業業績への負の影響は避けなければならない。

 「毎年の新入社員向けの研修でも、会社の歴史などとともに社会貢献に力を入れる会社の取り組みとして、広報部がみまもりほっとラインを取り上げてくれています。社内外に象印マホービンの社会貢献を認識してもらう役割があるので、マイナス続きで将来的に事業が継続できなくなるような状況からは脱却する必要があります」

情報サイトのリニューアルやWeb広告で周知を徹底

 象印マホービンはみまもりほっとラインの事業的な位置づけは変えない一方、サービスの周知方法は時代とともに変えていこうとしている。

 川久保氏らは2016年、みまもりほっとラインの契約を純増に反転させるために、具体的な手を打ち始めた。その1つが、みまもりほっとラインのポリシーやサービス内容を知らせるWebサイトのリニューアルだ。パソコン向けの画面デザインだった従来のサイトを、スマートフォンにも対応したサイトへと2016年6月にリニューアルした。

 このリニューアルは夏の新規契約数の落ち込みを減らす効果を上げている。みまもりほっとラインは、電気ポットを活用するため、冬に新規契約が増え、夏に新規契約が落ち込む傾向がある。冬場はお湯がふんだんに必要で、年末年始に帰省した家族が危機感を覚えて見守り系のサービスを検討する時期でもある。一方、夏はお盆の帰省はあるが、お湯はあまり必要とされない。そのため、夏は例年、新規契約数の落ち込みが顕著だったが改善したのだ。

 また、2016年12月からWeb広告の配信を始めている。

 「高齢者を優しく見守りたいというご家族は必ずいるはずですが、なかなかその方々に情報を届ける手段がわかりませんでした。そこでデジタルマーケティングを活用して少しでも確実に情報を届けたいと考えたのです。その結果、契約数は2016年に底を打ち、純増の月が多くなってきました。V字回復とは言えないですが、手応えを感じています」

 IoTの先駆者であり、競合となる家庭内の見守りサービスがまだなかった時代から継続している象印マホービンのみまもりほっとラインであっても、その価値を、必要とする人たちに周知し続けないと契約数は漸減してしまう。このことからも、IoTを事業化する際に、その価値を周知することの重要性は痛感できる。

 一方で、象印マホービンにIoTの先端を走ろうという気負いはほとんどない。「『IoT』をやらなければならないという認識は会社にありません」と川久保氏は話す。IoTに関する事業を先んじて実現したとはいえ、事業価値の創出に、たまたまICTが役立ったという肩の力の抜け方だ。

 今後も同社は、利用者のことを第一に考えてこのサービスを拡張していく。

 「さらに新しい世代の通信モジュールの提案も通信機メーカーからいただいており、3代目のiポットもいつか出すことになるでしょう。2代目ではおでかけ機能を入れました。3代目ではどんな機能が利用者に役立つか、頭をひねっているところです」

(フリーライター 岩元直久)

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