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IoTの勘所

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電気ポットによる高齢者見守り事業が16年続く理由

象印マホービンの事業担当者 川久保亮氏に聞く

 サービスを開始してからの最大の問題は、この事業の価値を周知することだった。高齢者を遠隔から見守るというだけでも革新的だったが、それが電気ポットという日常生活で使う機器で実現した点はさらに革新的である。そのため、「今では考えられないような宣伝費用」をかけたと川久保氏は振り返る。

 さまざまなメディアに広告を掲載したほか、記者会見を開いて新聞やテレビにニュースとして取り上げてもらった。ゼロからのスタートであり、契約数は当然のことながら右肩上がりで伸びた。サービス開始以降もテレビなどで報道されると一段と契約が増えるという状態だった。

 利用者の評判も良かった。「大事に至る前に入院できた」「風邪を引いていることがわかった」という事例が多数あるという。一方、残念なことではあるが、ポットの使用が12時間ほどないため、家族が見に行ったところ、親御さんが亡くなっていたということもある。しかしその際には「ポットがあったからすぐにわかったという言葉を利用者からいただきました」と川久保氏は話す。

<b>メールで外出や帰宅がわかる(写真提供:象印マホービン)</b> メールで外出や帰宅がわかる(写真提供:象印マホービン)

 意外な効用は、利用者の家族意識を高めたことだ。見守られる高齢者は給湯するとき「行動が子どもに伝わる」ことを意識するほか、見守る家族はポットの利用状況に関するメールを見て「親が外出から帰宅したので、電話してみよう」と考えることがあるという。電気ポットがコミュニケーションを促す手段になっているともいえる。

 また、同社は、通信技術の進歩に合わせて電気ポットを第2世代の機器に変更したときに「おでかけ」ボタンという新機能を追加した。「電源オン」と「給湯」の情報をメールで知らせるだけだと、ポットの利用がなかったとき、外出で利用していないのか、体調不良で利用していないのかの区別が難しい。そこで外出時は利用者に「おでかけ」ボタンを押してもらうことで、元気に外出していることが明示的にわかるようにした。外出から帰宅して給湯のロック解除やお湯の再沸騰をした場合や、「おでかけ」ボタンを再度押したときには、「帰宅」であると知らせる。

社会貢献であっても契約数の増加は重要

 しかし16年間、このサービスが順調に契約数を増やしてきたわけではない。開始当初は月に3~4回、現在でも月に1回は放送するテレビコマーシャルの後は新規契約が増えるのだが、一方で解約もある。多くは、他の見守りサービスへの乗り換えというより、見守った高齢者の逝去・入院・家族との同居といった必然的な状況変化が原因だ。解約数を上回る新規契約を得るには継続的な周知が欠かせない。

 「前任者のときは最大で4000件超の有効契約がありましたが2011年の東日本大震災を契機に減少に転じました。家族がいっしょに暮らそうとする動きがあったほか、節電意識が電気ポットの利用度低下に向かったことが原因だと考えています。しばらく年150件程度純減の年が続き、2016年には契約数が3000件台前半になりました。私は3代目の担当者になって4年目ですが、最初の3年は辛い時期でした」

 みまもりほっとラインは事業を単体では評価していないため、厳密な評価ではないとしながらも「3000件台前半だと、単体では赤字だと考えています」と川久保氏は語る。社会貢献をきっかけに始まったサービスだけに、収益だけで事業継続を判断するわけではないが、赤字が拡大し続けると、サービスの提供に影響が出る可能性は高まる。「私のミッションは、契約数をプラスにし続けること。それが今のみまもりほっとラインのKPI(重要業績評価指標)なのだと考えています」(同)という。

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