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IoTの勘所

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電気ポットによる高齢者見守り事業が16年続く理由

象印マホービンの事業担当者 川久保亮氏に聞く

 「IoTでビジネスを創出する」。多くの企業は今、IoTブームに乗り遅れまいと必死だが、現実には多くのハードルが待ち構えている。ICT(情報通信技術)で既存の製品に新たな価値を付加することはIoTに期待される成果の1つだが、どのようにすればよいのだろうか。連載第3回は、実際にIoTをビジネスで活用している象印マホービンにその勘所を尋ねた。

 炊飯ジャーや電気ポットのメーカーである同社は2001年に、無線通信機能を備えた電気ポット「iポット(iPOT)」を開発。それを活用して高齢者見守りサービス「みまもりほっとライン」を16年にわたり提供している。ここでは、同事業の担当者である川久保亮氏(グローバル業務部 特機グループ サブマネージャー)の話を基に、開発の経緯から現在の事業戦略までをまとめた。

社会貢献のため企画するも開発に苦労

 まず、ICTを活用して電気ポットで高齢者見守りサービスを実現した背景を聞いた。なぜ電気ポットのような、監視とは縁遠い機器で高齢者見守りサービスを実現することになったのだろうか。また、高齢者見守りサービスを開発した当時はインターネットに接続するための技術的なハードルが現在よりはるかに高かった。それをどう乗り越えたのだろうか。

 みまもりほっとラインの3代目担当者である川久保氏は、初代担当者などから伝え聞く、開発当時の様子をこう話す。

<b></b>川久保 亮氏</b><br>象印マホービン グローバル業務部 特機グループ サブマネージャー

川久保 亮氏
象印マホービン グローバル業務部 特機グループ サブマネージャー

 「みまもりほっとラインの開発はよく知られた孤独死の事件をきっかけに始まりました。1996年4月、東京・池袋で、病気の息子さんとその看病をしていた高齢のお母さんが孤独死された事件を覚えている方も多いでしょう。その事件に心を痛めた東京の医師の方が『家庭向け機器を使い、お年寄りの日常生活を把握する方法はないか』と当社に相談され、メーカーとしてなんとかお役に立ちたいと考えたのです」

 象印マホービンが製造する機器は、炊飯ジャーや電気ポットなどだが、毎日電源を入れて利用する。これらに通信機能を組み込み、遠隔から利用状況を調べれば、高齢者の生活を離れた場所からも見守ることができる。行動を把握するという目的からすれば、監視カメラが直接的だが、プライバシーが損なわれてしまう。それに対して、炊飯ジャーや電気ポットは、高齢者の側に「監視されている」という感覚が生まれにくい。

 同社はサービスの実現に向け、通信機能を組み込む機器を絞り込み、最終的に炊飯ジャーと電気ポットについて実証実験を行った。

 「高齢者を遠隔から見守るサービスは当時、その概念自体が一般的ではありませんでした。そこで、製品モニターの方による実証実験などを通じて実用性を入念に検証しています。その結果、電気ポットは毎朝電源を入れてお湯を沸かし、お茶を飲むために何度も給湯するなど、行動を炊飯ジャーよりきめ細かく把握できることがわかりました」

 結果を受けて、電気ポットを対象に通信機能を組み込むことにしたが、最初の実証実験から実際のサービス提供までは約4年かかったという。技術的なハードルが予想以上に高かったためだ。

 「当時、インターネットはありましたが、通信ケーブルを家の中に配線して電気ポットに接続する工事が必要で、お年寄りは家の中の配線工事を好みません。また、ご家族が遠隔で電気ポットの利用状況を確認するには、パソコンと専用のソフトウエアが必要でした。サービスの形は見えていながら、技術的な問題で実用化は暗礁に乗り上げました」

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