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グローバル市場インタビュー

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プロセスを確立し、リスクに挑む英国式

ケンブリッジコンサルタンツ リチャード・トレハン氏に聞く

日本企業もリスクを避けず、管理を

――従業員の働く意欲をいかに高めるかに知恵を絞っているのですね。

 やる気を引き出すための環境を大事にしています。例えば、会社の食堂ではランチは無料。役員も社食を利用しており、若い人たちと積極的にコミュニケーションを取るようにしています。オフィスの場所もビジネスの利便性だけでなく、周囲の環境など安心して働けることを重視して決めます。組織もフラットにし、権限委譲を進めて、アイデアを実行しやすくしています。

――イノベーションを生む文化の違いに着目すると、ケンブリッジ大学を中心とした英国式イノベーションは、米西海岸のシリコンバレーや、日本の大企業中心の技術開発と比べ、どんな点に特徴がありますか。

 米国はリスクを取って挑戦する文化がありますね。スピードも速い。失敗例も多いですが、厳しい競争の中から生き残り、大きくなる企業が生まれます。グーグルやウーバーなどがそうです。一方、日本は終身雇用が一般的で、米国のように失敗したら次の会社に行くとか、次の事業を興すといった文化ではありません。視野が狭く、慎重になりがちです。

 英国は両者の中間といったところでしょうか。リスクは取りますが、確立されたプロセスを通じてリスクを管理し、最小化することを目指します。日本と似ているのは、科学的な根拠に基づくイノベーションを志向する点です。イノベーションは偶然に生まれるのでなく、基礎を固め、入念な準備の上に成り立つという価値観は共通していると思います。

 実際、日本企業と協業した経験からも相性がいいと感じています。例えば、日立製作所とは戦略的なプロジェクトを、両社の社員が参加するチームで進めていますが、作業の進め方などでケミストリーが合うようです。アサヒビールや計測機器のエー・アンド・デイとは、リスクや法規制を一つ一つクリアしていく手法などが似通っていると感じました。

――3社のように元気な企業もありますが、日本経済全体でみると、バブル崩壊以降、低成長が続いています。戦後の高成長をけん引したソニーやホンダに匹敵するようなベンチャー企業もほとんど生まれていません。何が原因だとお考えですか。

 大きく分けて4つあります。1つは先ほども申し上げましたが、新しいことに挑戦するリスクに対するアレルギーといいますか、避ける傾向が強いこと。2つ目は意思決定に時間がかかりすぎること。3つ目は技術偏重で、ビジネスの観点が失われがちなこと。時には採算のメドもないまま開発に突き進む例もあるようです。最後は国内市場だけに意識が向き、グローバルの視点を持ちにくい点です。

――世界の企業と協働してきた体験から、4つの課題に対して、どんな処方箋が有効だと思いますか。

 リスクに関しては、プロジェクトを進める際のプロセスをきちんと定義し、それに沿って管理することが重要です。人間の感情やメンタルの要素を排し、仕組みにのっとってステップバイステップで進める必要があります。決断が遅いことは組織の問題です。権限委譲し、現場に近いところで意思決定ができるようにするべきです。

 3つ目の課題に関しては、技術開発のプロセスの中に、あらかじめビジネス上の目標も明記しておくこと。目標のために開発するという意識を組織内で共有することです。最後のグローバル対応はオープンイノベーションの考え方を取り入れることが有効です。海外の事業会社やコンサルティング会社と協働することで経験を積み、グローバルな視点を培うことができます。4つの処方箋はすべて企業の文化や組織を大きく変革することにつながります。社員の意識を変えるのは大変ですが、小さなことから徐々に進めるのがよいでしょう。

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