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しくじる会社の法則

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「本社の新築は危ない!」が鉄板法則なわけ

ジャーナリスト 高嶋 健夫氏

従業員用駐車場のすごい停め方

 チェックを入れるのは、受付や玄関ロビー、オフィスの中だけとは限りません。どこの会社・工場にも併設されている従業員用駐車場だって、ときに「会社の顔」の役割を果たします。心がポカポカしてくる体験をしたのが、10年ほど前、香川県さぬき市にある徳武産業の本社兼工場を訪問した時です。

 同社は資本金1000万円、従業員60人ほどの小さな会社ですが、主力製品の「あゆみシューズ」は介護用シューズのトップブランドで、発売以来900万足以上を売り上げています。病気やケガで足が不自由な高齢者や障害者のニーズに応えて、左右サイズ違いや片足だけでの注文も受け付けるなど、〝お客様ファースト〟のきめ細かな販売・サービス体制をいち早く確立したことで、介護施設や福祉施設の関係者には広く知られています。

 20年以上前から何度も取材してきた会社ですが、四国は遠くて、本社に行ったのはこの時が初めてでした。社長(現在は代表取締役会長)の十河孝男さんに高松空港まで迎えに来ていただき、社長さん自身の運転で1時間以上かかって着いた同社は、周囲に何もない田んぼのど真ん中にありました。

 敷地の中に入ると、手前側には従業員や来客用の駐車場があり、その奥に小ぶりな平屋の本社が建っています。助手席を降り、社屋に向かって歩き始めた直後、私はあまり見慣れない光景に気づき、一瞬、立ち止まりました。そこに停めてあった10台ほどのクルマがすべてテールをこちら向きにして、つまり、頭を奥に突っ込む形で駐車していたのです。

 「きっと、ここの社長のことだから......」と思いながら、周囲をキョロキョロ見回している私に向かって、十河さんは「高嶋さん、わかりました?」とニッコリ。金網フェンスで仕切られた向こう側はもう広々とした田んぼ。青々と育った稲穂が風になびいて波打ちながら、駐車場のすぐ横まで迫って来ています。

 クルマが頭から突っ込んで止めてあったのは、お隣の田んぼへの心遣い。稲が少しでもいい環境で育つことを願って、排ガスが直接当たらないようにしていたのです。効果がどのくらいあるかなんて考えるのは野暮というもの。若い頃から地域興しにも熱心に取り組んできた十河さんと社員の皆さんの優しい気持ちが、〝らしさ〟とともに素直に伝わってきて、私は感銘を受けました。

 豪勢な本社オフィスだけが「会社の顔」ではないのです。

高嶋健夫著 『しくじる会社の法則』(日本経済新聞出版社、2017年)第4章「『本社の新築は危ない!』が鉄板法則なわけ」から

高嶋 健夫(たかしま たけお)

ジャーナリスト。
1956年生まれ。79年早稲田大学卒業後、日本経済新聞社に入社。編集局産業部、日経ベンチャー編集部、日経文庫編集長を経てフリーに。中小・ベンチャー企業経営者、商品開発・マーケティング、バリアフリー、ユニバーサルデザイン関連の記事、著作を多数執筆。主な著書に『障害者が輝く組織』、『R60マーケティング』(共著)、『「非常識」を「常識」にして成功する経営』(構成)などがある。

しくじる会社の法則

著者:高嶋健夫
出版:日本経済新聞出版社
価格:918円(税込)

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