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宅配がなくなる日

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宅配ドライバーの到着はもう待てない

フロンティア・マネジメント 代表取締役 松岡 真宏氏、シニア・アナリスト 山手 剛人氏

 配送量増大や人手不足によって、宅配ネットワークが崩壊しようとしている。この問題を解決するには、個々の企業の経営戦略や取引契約といった表層を追うだけではなく、長期的な消費者行動や価値観にまつわる社会システムの変容というダイナミズムから読み解く必要がある。第2回は、宅配崩壊の根本的な構造要因を突き詰めていこう。大きく分けるとこの構造要因には、1.世帯構造の劇的な分散化、2.スマホなどモバイル端末の「利用時間」の爆発的な増加、3.これら2つを原因とした人々の「時間価値」の変化、が挙げられるが、ここではこれらのうち「時間価値」の変化について説明する。

「宅配崩壊」の本質要因の1つは「時間価値」の変化

 では、あるべき宅配網の再定義について考えていこう。まずは、既存のシステムが機能しなくなった理由の根源を突き詰めていく必要がありそうだ。

 筆者が考える宅配崩壊の根本的な構造要因は、次の通りである。

(1)世帯構造の劇的な分散化
(2)スマホなどモバイル端末の「利用時間」の爆発的な増加
(3)これら2つを原因とした人々の「時間価値」の変化

 ここでは、これらのうち第3の要因、人口動態の変化やモバイル端末の発達によってもたらされた「時間価値」の変化に焦点を当てよう。いささか脱線してしまうが、ここで「時間価値」という言葉や、その背景にある「時間資本主義」という概念についても簡単に説明しておきたい。

 「時間資本主義」とは、現代において価値が高まっている「時間」をある種の「資本」と捉えて、経済や社会の流れを見る新しい試みでもある。筆者は、その重要な概念のひとつとして、「時間価値」という言葉を用いている。「時間価値」とは、費やした時間によって生み出される各種の便益や効用の総称でもある。

 スマホに代表されるモバイル端末の普及と利用時間の増加は、人々の生活パターンを根本的に変えた。それは、同じくインターネット通信機能を持つデスクトップPCの登場を質量ともに大きく上回る断層的変化だった。私たちはパソコンを手にしたことで、大量の情報を手に入れ、世界中の誰とでも通信コミュニケーションを行うことが可能となった。

 ただし、スマホ登場以前の情報端末は、気軽に携帯することが難しかった。デスクトップPCの便利さは主に、オフィスや自宅の書斎やリビングなど、パソコンが置かれている空間、場所に紐付いたものに過ぎなかった。つまり、私たちはパソコンを手にして情報獲得・処理能力を得る代償として、パソコンの置かれている空間に「絡め取られた時間」を生きていたと言える。

 スマホは、携帯電話とパソコンという異なるデバイスの進化系としてこの世に生を受けたが、文字通りその「携帯性」こそが革新的だった。スマホを携帯することによって、私たちは自由意思で動き回りながら、どこにいても大量の情報を獲得したり、発信し続けることができるようになった。

 大量情報の獲得・処理・発信ができるスマホという存在が、私たち人間にもたらしたのは、偶発的に発生するこまぎれ時間、つまり「すきま時間」の活用である。

 その分かりやすい例は、通勤時間だろう。これまでも、長時間の通勤電車の中で過ごす時間を、新聞を読んで情報収集に充てたり、語学などの学習時間にしてきた人は少なくなかった。しかし、電車の待ち時間やほんの1~2駅の短距離移動のための数分程度の時間は、せいぜい車内の広告を眺めることで終わっていた。

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