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宅配が崩壊した本当の理由

フロンティア・マネジメント 代表取締役 松岡 真宏氏、シニア・アナリスト 山手 剛人氏

 配送量増大や人手不足によって、宅配ネットワークが崩壊しようとしている。この問題を解決するには、個々の企業の経営戦略や取引契約といった表層を追うだけではなく、長期的な消費者行動や価値観にまつわる社会システムの変容というダイナミズムから読み解く必要がある。第1回は宅配が崩壊した本当の理由を説明したい。

再配達問題の本質は「ネットワークの崩壊」にあり

 宅配業界におけるドライバーの過重労働の問題は、2016年11月にヤマト運輸が労働基準監督署から未払い残業代に関する是正勧告を受けていた事実が発覚したことをきっかけに、広く話題を集めるようになった。

 2017年に入ってすぐに減益を発表したヤマト運輸は、業績不振の理由として、宅配荷物の急増に自社の宅配ドライバーでは対応しきれず、外部の物流業者に一部の宅配業務を外注したことがコストアップを招いたと説明した。これらを受けて同社は、アマゾンなど大口顧客への値上げ交渉を進め、サービス内容の見直し、料金値上げなどにより、宅配ドライバーの労働環境を改善する経営方針へと舵を切る。

 2017年3月の労使交渉では、宅配荷受量の総量規制(上限)を設けることや、宅配ドライバーの退社時刻と翌日の出社時刻の間を少なくとも10時間以上と定める「勤務間インターバル制度」を導入することなどで、経営側と労働組合は合意に至った。

 また、受取人が家にいることが多い時間帯(午前の早い時間と午後8~9時)に宅配ドライバーの業務が集中している問題を受けて、正午~午後2時(ドライバーの昼食休憩時間でもある)における時間指定の撤廃や、再配達依頼の最終受付を午後8時から1時間早めて午後7時とした。

 そして2017年4月、ヤマト運輸は実に27年ぶりに宅急便の基本運賃を引き上げる方針を固めた。

 このヤマト運輸の宅配問題は、多くのメディアで日本企業に共通する過剰サービスや労働生産性の低さを是正する「働き方改革」の試金石として取り上げられた。加えて、荷物を受け取る側もサービス改定に伴う不便さは甘受すべきだという「利用者のモラルにまつわる問題」という文脈で語られる場面も多い。

 しかしここで、特に気を付けておきたいのは、未払い残業代や運賃引き上げといった話は本来、個々の企業の労務問題や企業間契約にまつわる、いわばミクロな話であるということだ。それらが決着したところで、宅配問題の根底にある「構造」には少しもメスが入らないのである。

 ヤマト運輸が総量規制を行っても、処理能力を超えるEC、ネット通販利用者の増加という構造変化の流れは止められない。ヤマト運輸よりも大手EC企業に対する交渉力が弱い中堅以下の宅配業者にお鉢が回るだけだろう。

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