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しくじる会社の法則

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名刺を放り投げてきた「切れ者」商社マン

ジャーナリスト 高嶋 健夫氏

 「しくじる会社」と「伸びる会社」はどこが違うのか。35年以上の取材歴、会った社長も約1000人。経験豊富な企業ウオッチャーだから語れる、財務データではわからない会社の見分け方を紹介します。1回目は「社長を見れば、会社の様子が分かる」――。

「社長の人間性」はここで即バレする

名刺交換で人柄がわかる 名刺交換で人柄がわかる

 ビジネスパーソン同士の挨拶は、当たり前ですが、「名刺交換」から始まります。このどうということのない日常動作ひとつにも、社長の人間性がにじみ出ます。

 名刺交換では、忘れられない経営者がいます。土光敏夫さん(1896~1988)です。質素な生活を旨として〝メザシの土光〟と呼ばれた伝説の名経営者。新人記者の私が最初にお目にかかったビッグネームでした。私は日本経済新聞社に入社してすぐに宇都宮支局に配属されたのですが、着任してまだ1~2週間くらいの時の出来事です。

 当時、土光さんはすでに経団連の会長だったのですが、出身母体である東芝の工場視察のために来県することになり、その機会を捉えて、栃木県庁では売れ残っていた工業団地を財界に広くPRしようと、宇都宮市内の大型工業団地の視察をセットしました。その情報をつかんだ支局長からの指示で、短い時間でいいからインタビューができるように県のお役人に、土光さんへの取材を申し込んだのです。

 取材に行った記者は私だけでした。それで、土光さんがちょっと休憩された時に「今ならいいですよ」と県庁の人にOKをもらい、前に進み出て「日経の宇都宮支局の高嶋です」と名刺を差し出しました。何しろ、こんな大物と会うのは初めてですから、緊張でガチガチ。名刺を持つ手が震えていたことを今でも覚えています。

 ダブルの背広に身を包み、どっしりとソファーに腰を下ろした土光さんは〝荒法師〟の異名そのままの堂々たる風格で、こちらを見る目は眼光鋭く、怖いくらいでした。

 けれども、土光さんは「はい」と私の名刺をしっかりと受け取り、胸ポケットから自分の名刺入れを取り出して、「土光です」と言って経団連会長の名刺を渡してくれました。今から思えばごく当たり前の名刺交換なのですが、駆け出し記者だった私は「こんな大物でも名刺をくれるんだ」と、これだけで大感激でした。実際のインタビューは視察した工業団地の印象を聞いたくらいで、時間も5分か、10分程度。いわゆる〝ブラ下がり〟に毛が生えた程度のものでしたが、この時の土光さんの礼儀正しさと真摯な受け答えは、私の心に鮮烈な印象を残し、今日まで変わらずに焼き付いています。

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