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古川修の次世代自動車技術展望

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カーレーサー並み運動制御技術が実現?

芝浦工業大学 特任教授 古川 修 氏

 前回は、自動車の運動制御技術の起点となった4輪操舵システム(4WS)について、その開発の歴史と現在の進展状況について紹介した。4WSを起点として、自動車の運動制御の考え方は操舵装置にとどまらず、ブレーキ、駆動、サスペンションの分野にまで広がって、横滑り防止制御(ESC)などの実用化につながる進化を遂げてきた。今回は、最新の自動車の運動制御技術について研究開発や実用化の現状を紹介し、将来の発展の方向性を俯瞰する。

4WSからほかの運動制御への波及

 まずは、ステアリング系やブレーキ・駆動系、サスペンション系などの様々な制御によって、自動車の運動特性改善はドライバーや同乗者に対してどんな「ありがたみ」を与えるのか、という原点に戻って考察する。「ありがたみ」としては、以下の項目が考えられる。

(1) 特に高速走行時において、直進に近い形状の道路での操舵がしやすい
(2) 直前の障害物を回避しやすい
(3) カーブが続く道路で、意図した通りに安定して自動車を操ることができる
(4) 滑りやすい路面状況でも安定して自動車を操ることができる
(5) ブレーキや駆動力をかけても、安定して自動車を操ることができる
(6) 乗り心地がいい

 4WSは、これらのありがたみのうち、主に(1)と(2)を向上させる狙いがあった。

 (3)については、4WSによって多少の改善は見られたが、さらに顕著に「ありがたみ」を向上させるものとして、ブレーキ力や駆動力の大きさを左右で変えて、その力の差を利用して自動車の回頭特性(専門的にはヨー応答特性と呼ばれる)を制御するアイデアが生まれた。

 ブレーキ制御はすでにアンチロックブレーキシステム(ABS)で各車輪のブレーキ力を独立に制御する手法が確立していたので、左右のブレーキ力の差を制御する技術はスムースに開発され、実用化された。これが前回も紹介した電子横滑り防止制御(Electronic Stability Control:ESC)である。ESCは上記ありがたみのうち、(3)だけではなく(4)や(5)にも効果を発揮する。

 また、(3)の大幅な向上を目的として、左右の駆動力の差を制御する左右トルク能動分配システム(Active Torque Transfer System:ATTS)がホンダで実用化され、1996年に「プレリュード」に搭載された。これはカーブを走行しているときに外側のタイヤの駆動力をより高めて、回頭性能を向上させるもの。

 通常の前輪駆動車(FF車)では旋回中に駆動を行うと、前輪のタイヤの横向きのグリップが減少するので、自動車はカーブの外側に膨らむ(アンダーステア特性)が、ATTSを用いるとその現象を抑えて気持ちよくカーブの内側へ向けて曲がってくれる。

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