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「お買い得」の意味を機会費用で説明すると

東京女子大学現代教養学部 教授 竹内健蔵 氏

「機会損失」と「機会費用」の違いは

 1つには、その選択肢の選択が自らの意志によるものなのか、それとも何らかの避けられない事情によるものなのか、ということである。

 機会損失について、たとえば、(1)の事例で見てみよう。商品の爆発的なヒットという、まったく想定していなかった状況が起こり、いつもの在庫では対応できなくなったことが機会損失の原因である。しかし、消費者がその商品のどこを気に入ったのか(どこが消費者のツボにはまったのか)については簡単に予想することができないという意味で、いつもの少ない在庫という選択肢の採用はやむを得ないことであった。

 (2)の事例でも、担当者が好きこのんで契約内容にミスを入れようとすることはないし、(3)の事例でも、わざと機械を故障させようとすることはないだろう。このように、機会損失が発生する事態を作り出した選択肢は、自分の意思で選んだものではない場合がほとんどである。

 一方、機会費用は、もちろん機会損失のように強制的に選択肢を選ばせられる(たとえば、交通事故による生命の損失などがこれにあたる)こともあるが、それよりも自分の意思にしたがって自由に選択肢を選ぶという場合の方が多い。

 もう1つは、計測されるものが違うということである。機会損失のとき、その額は金額で計算される。これは機会損失の考え方が財務(お小遣い帳)上の考え方であることからも当然のことだろう。言い換えれば、機会損失は金銭的損失であり、先に出てきた言葉を使えば会計学的費用で表現された損失となる。

 機会費用は、機会損失のように金銭的費用がすべてとなる場合もある。しかしたいていの場合、すでに述べたように機会費用には金銭では表すことのできないものも計算に入ってくる。先に、「お財布からお金が出ていくという不快なことだけではなくて、それ以外にも精神的なものも含めて不快なことが人間にはある」と述べた。機会費用ではそうしたものまでも計算に入れられる。

 機会損失は、企業経営上忘れてはならない重要な考え方であることは間違いない。しかし企業に発生する損失には、収入を失うという金銭的な損失(会計学的費用)だけではなく、それ以外のさまざまな損失(機会費用)も発生することがあるということを知っておく必要がある。

 たとえば、ミスによって契約が破棄されたという状況が起こると、単に得られるはずであった収入を失うという金銭的損失だけではなく、社員の士気を低下させるという損失が発生する。また、機械の故障で納期が遅れるということは、納入品によって得られるはずだった収入を失うという金銭的損失だけではなく、取引先からの信頼を失うという損失もある。これらは、単純に金銭的な機会損失だけでは計測することができない。

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