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「お買い得」の意味を機会費用で説明すると

東京女子大学現代教養学部 教授 竹内健蔵 氏

「もうけ損ない」は本当にもうけ損なっただけか

 経済学の世界ではなくビジネスの世界では、「機会損失」という、機会費用と似た考え方がある。機会損失とは、企業経営上つねに意識しておく必要がある考え方である。機会損失という言葉は、機会費用と同様に何だかわかりにくい言葉のように思えるので、これをわかりやすく言い換えれば、「もうけ損ない」といってよいだろう。

 機会損失は、たとえば、

(1)自社の商品がヒットし、急激に売れ始めて在庫が底をつき、顧客をみすみすとり逃がしてしまった。
(2)ある売買契約を締結する直前になって、自社の手違いにより契約内容に誤りが見つかって契約を破棄された。
(3)ある会社に製品を納入するはずが、機械の故障で納期を過ぎてしまい、納入を断られた。

ことなどで発生する。つまり、本来ならば得られたはずの収入が、何らかの理由で得られなくなって「もうけ損なう」ということであり、そのもうけ損なった収入の額が機会損失になる。

 いま述べた3つの例の場合、企業はそれぞれに異なる選択肢を持っていたことになる。(1)の事例では、大量の在庫を持つことと、わずかな在庫を持つことという2つの選択肢、(2)の事例では、契約にミスがないようにすることと、契約にミスを作ってしまうことという2つの選択肢、(3)の事例では、機械が故障しないということと、機械が何らかの理由でトラブルに見舞われることという2つの選択肢である。それぞれの事例でのこれら選択肢のうち、一方の選択肢が(やむにやまれぬ事情があって)選ばされ、みすみす得られるはずであった収入を逃すことになったために、機会損失が発生する。

 機会費用の定義を、くどいようだがここでもう一度書いてみよう。

 「機会費用とは、複数の選択肢があるとき、ある選択肢を採用したことによって犠牲にされた選択肢を選んでいたならば得られたであろう価値のことである」

 この文章と、いま述べた機会損失の説明はかなり似ていることがわかる。しかし、機会損失と機会費用は厳密には異なる。両者は2つの点で違うといえるだろう。

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