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日本とロシアの関係は「呉越同舟」

藤 和彦 氏

パイプラインの相互確証抑制効果

 さらにパイプライン敷設は安全保障面でプラスの効果がある。冷戦時代に旧ソ連と西欧間に敷設された天然ガスパイプラインが示すとおり、資源国がパイプライン建設という先行投資を着実に回収するために消費国に天然ガスを安定的に供給するという発想が強くなるため、消費国に対して敵対的な行動をとることができなくなるからである。

 ロシアの専門家は、パイプライン網が旧ソ連と欧州の間の安全保障を支える基盤となり、冷戦終結に大きく貢献したことに注目し、「パイプラインには相互確証抑制効果がある」と指摘する。

 パイプラインの相互確証抑制効果とは「相互確証破壊」という核戦略にかかわる軍事用語をもじってつけたネーミングである。冷戦時代の核の相互確証破壊効果とは、米ソとも自らの安全を確保しつつ相手を完璧に「抹殺」することができなかったために、核兵器を使用することができず、大戦争が生じないという構造となっていた。これに対し、パイプラインの相互確証抑制効果とは、パイプラインによってつながれた関係国間では破滅的な紛争が自制的に回避されるというものである。消費国は天然ガス売買契約に「テイク・オア・ペイ条項」があることから生産国に対して買い取り義務があるのは当然であるが、生産国も消費国の生殺与奪の権を握っているというよりも、先行投資を着実に回収するため消費国に天然ガスを安定的に供給する発想が強くなる。これにより相互に敵対的な行動をとることができなくなるのである。

 しかも、現在あらゆるエネルギーが競争にさらされていることから、生産国が仮に恣意的に供給ストップという一方的な行動に出れば、消費国は失ったエネルギー源を他から調達することに奔走することになるが、これまで利用してきたパイプラインに対する不信感から二度とこれを使用することはなくなるであろう。

 長距離パイプラインは、いったん敷設してしまえば、ほかに移動させることも、輸出先を変更することも物理的に不可能である。天然ガスの巨額の輸出代金を得られなくなる生産国が大きな損失を被るのは火を見るより明らかである。

 したがって、両国の関係は互恵的・双務的な性格が強いものになりがちなため、パイプラインはエネルギーを利用した政治的な「武器」としてよりも、地域の安全保障に寄与するのである。

 しかしLNGではこうはいかない。1980年代、米国とアルジェリアの間でLNG価格紛争が勃発し、アルジェリアから米国向けLNG輸出は完全に止まってしまった。アルジェリアはその分を欧州地域に回す一方、米国は他国から天然ガスを優先的に調達したため、両国間のエネルギー供給関係は完全に断絶してしまった。このようにLNGでの供給には、「支配」という心配もない代わりに「協調」という要素もない。外交的な効果が生じにくい、ビジネスライクな性格のものであると言えよう。

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