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石川善樹の「脳とうまく付き合う法」

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強さとは信頼、「ゲーム道」究める

東大卒プロゲーマー、ときど氏に再び聞く

予防医学者 石川善樹氏

石川 今のお話を聞いて思い出したのは、ゴルフのタイガー・ウッズ選手の全盛時代の逸話です。試合の最終日18番ホールで、相手がパットを決めたら優勝する場面で何を考えるか。普通の選手なら「外してくれ」と念じるところですが、ウッズ選手は「入れてくれ」と願っていたそうです。相手がベストのプレーをし、自分もベストのプレーをする。それで勝つのが理想の試合だと思っていたんですね。

ときど 長い目で見たとき、ウッズ選手の考え方の方が正しいでしょうね。相手が外して自分が勝ちを拾っても次につながるものは得られません。それより、相手の勝利をたたえて、次は自分ががんばるぞ、と思った方が精神的に成長するんじゃないでしょうか。

剣道日本一の「無心の一打」に感動

石川 最近は格闘ゲームの試合がネット配信されて視聴者が増えたので、観客を盛り上げようとして、相手を挑発するような動きをする若い選手も出てきました。すでに勝負が決まりかけているのに、わざと相手に攻撃させようとするとか。

ときど 昔も似たようなプレーはありました。でも格闘ゲームがまだマイナーな世界だったので、お互いに「弱いものが弱いものをいじめてどうする」みたいな共通認識があったんですね。ところが観客が増えたことで、若い選手にとって格闘ゲームはメジャーな存在になり、そういう意識が薄れてしまった。メジャーになった故の弊害ですね。喝を入れないといけません(笑)。

石川 先ほど言っていた「ゲーム道」につながるわけですね。どうして、そういうことを考えるようになったんですか。

ときど 石川さんに教えてもらったNHKの番組「ただ一撃にかける」を見て、すごく衝撃を受けたことがきっかけです。剣道日本一になった栄花直輝選手を追ったドキュメンタリーですが、ゲームの世界にも通じると思ったんです。

石川 栄花選手は剣道日本一を決める試合で、当時最強と言われた宮崎正裕選手に挑戦するんですよね。1回目は相手の得意技であるメンを返して、払い胴を決めたかに見えたのですが、判定は宮崎選手のメンあり。栄花選手は納得できなかったのですが、夜にビデオを見て、やはりメンありだと認めざるを得なかった。そこから、自分の剣道に何が足りないのか、どうすれば勝てるのか、剣道への取り組みを根本から変えました。

ときど それまでは相手の動きばかり研究していて、自分を強くする努力が欠けていたんですね。基本に戻るため、道場の雑巾掛けから始めたのには驚き、感動しました。

石川 あのレベルまでいくと、技術じゃないんでしょうね。おそらく、メン返し胴を発想した自分の人格、性格そのものを変えようとしたんじゃないでしょうか。その結果、1年後の試合では練習でもやったことのない無心の一打で勝つことができた。

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