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古川修の次世代自動車技術展望

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「走る・曲がる・止まる」制御技術の大発展

芝浦工業大学 特任教授 古川 修 氏

 これに加えて、車両全体の運動を考慮して、各車輪に働くブレーキ力や駆動力を制御しようという考え方が登場する。例えば、滑りやすい路面のカーブ走行中にブレーキをかけたときに、自動車がカーブ内側に道路を逸脱しようとした(スピンアウト)ときには、外側の車輪を内側よりも強くブレーキをかけてスピンを防止する。

 逆にカーブの外側に道路を逸脱しようとしたときには、内側の車輪を外側よりも強くブレーキをかけて防止するというものである。このシステムは、自動車メーカーによって呼称が異なっていて、消費者の混乱を招いているが、国土交通省が進めるASV(先進安全自動車)推進検討会では、電子横滑り防止制御(Electronic Stability Control:ESC)と呼んでいる。

 ESCについては、自動車が横滑りしそうになったときにそれを防止する防護柵のように一瞬だけ働かせるシンプルな機能のものが最初に開発され、次に連続的に制御を継続させるタイプ、さらに、個々の走行条件やタイヤの状態に応じてきめ細やかに制御のやり方を変えるマネージメントタイプへと、技術進化を重ねた。

4WSは次第に衰退したものの、最近高級車で復活

 ESCは滑りやすい路面では必須の防止装置である。しかし、そのような路面で横滑りが起こりそうなときには、タイヤの横方向のグリップ力が失われているので、4WSの効果は少ない。そうしたことから4WSは、採用車両がだんだん少なくなっていった。

 ESCは滑りやすい路面での安全性維持に効果を発揮するのに対して、4WSは通常の走行での操舵に対する応答性や安定性を向上させるという違いがある。つまり、ESCは雪国でなければ日常的に必要となるものではないが、4WSは自動車を運転する際には毎日でも必要となる。

 4WSの良さは、通常の自動車では実現不可能な操舵応答の自由度をつくり出し、それによって高速走行での安定性向上と俊敏な操舵応答が約束されることだ。その良さが最近見直されて、日本では日産の「フーガ/シーマ」、そのOEM(相手先ブランドによる生産)の三菱自動車の「プラウディア/ディグニティ」、日産「スカイラインクーペ」、BMWの「7シリーズ」「5シリーズ」などの高級車に採用されるようになった。

 次回は、自動車の運動制御技術の最新動向について解説する。

古川 修(ふるかわ よしみ)

芝浦工業大学大学院理工学研究科 特任教授・公益社団法人自動車技術会フェローエンジニア。1948年東京生まれ。東京大学工学部卒。1977年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得退学。1977年本田技術研究所入社。1987年に世界初の乗用車用4輪操舵システムを実用化し、その後自動運転システム、2足歩行ロボット、先進運転支援システムなど、革新技術の研究開発プロジェクト責任者を務める。2002年芝浦工業大学教授。SO/TC204/WG14のコンビーナー(国際議長)を2回務め、ITS(高度交通システム)における運転支援システム技術の国際標準化に取り組む。車両運動制御に関する国際学術シンポジウムAVEC(1992)、自動車交通予防安全技術に関する国際学術シンポジウムFAST-zero(2011)を立ち上げる。2013年から現職。公職としては、国交省の先進安全自動車(ASV)推進検討会、警察庁、特許庁などの先進自動車技術に関する検討会の委員。表彰は、1991年発明協会より全国発明表彰で内閣総理大臣賞受賞など。趣味は、ブルーグラス、カントリー、ジャズなどのバンド演奏、そば打ち、日本酒蔵巡りなど。主な著書は「自動車の百科事典」(共著:丸善)、「ヒューマンエラーと機械・システム設計」(共著:講談社)、「クルマでわかる物理学」(オーム社)、「自動車のしくみパーフェクト事典」(監修:ナツメ社)、「蕎麦屋酒」(光文社知恵の森文庫)、「世界一旨い日本酒」(光文社知恵の森文庫)。

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