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古川修の次世代自動車技術展望

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「走る・曲がる・止まる」制御技術の大発展

芝浦工業大学 特任教授 古川 修 氏

 このホンダの動きと前後して、1980年代後半から1990年代前半くらいまでの間に、日本を中心として自動車メーカー各社がこぞって4WSを開発し始めて、進化を遂げることになる。ホンダでは筆者らの次の世代の技術者チームによって、電子制御であるステアバイワイヤーによる後輪制御方式が開発され、1991年、4代目「プレリュード」に搭載された。

 また、自動車技術に関する学会である自動車技術会では、自動車メーカーだけではなく、大学や公的研究機関で4WSに関する様々な制御方式を提案する論文が発表されるようになった。この自動車の操舵入力による運動制御の試みは、操舵装置以外のブレーキ力や駆動力を入力する制御や、サスペンションの張力制御などにも応用される波及効果があり、車両運動制御技術という新学術研究分野が誕生することとなった。

ABSも含めて車両運動制御技術分野が大きく発展

 この流れで筆者らは、Advanced Vehicle Control(AVEC)という国際学術シンポジウムを立ち上げ、1992年に初回を横浜で開催。その後、2年ごとに国内外で定期的に開催し、世界各国から多くの研究者や技術者の参加を得ている。こうして自動車の運動制御技術に関する学術的知見・技術的知見の交流が進み、車両運動制御技術は大いに発展した。

 ところで、4WSよりも前に実用化されていたのがABS(アンチロックブレーキシステム)だ。氷雪路で強いブレーキをかけると、自動車の走りが不安定になる。これは、タイヤがロック(回転停止)して左右方向のグリップが失われて、ドライバーがハンドルを回しても、意図に反して自動車が動くためだ。そこで、タイヤの回転数を検知し、ロックしようとしたときにブレーキを緩める電子制御を行えば、自動車が勝手に動くことはない。それがABSである。

 ABSはもともと、航空機で実用化されていた技術だ。着陸直後には機体にまだ浮力が大きく働いていて、タイヤの接地圧力が不足していているため、ブレーキも弱い力でしかかからない。このときに強いブレーキをかけるとタイヤがロックして滑走路での機体の直進安定性が低下するので、それを防止するために開発されたものだった。

 このABSは1980年代に日本やドイツの自動車にも多く採用されるようになり、滑りやすい路面での事故防止に貢献した。また、このABSの原理を発進加速時に用いたものがTCS(トラクションコントロール)であって、滑りやすい路面で駆動輪がホイールスピンを起こすことを防いでくれる。

 ABSやTCSでは4つのタイヤそれぞれを個別に制御しているので、車両の総合的な運動を考慮しているわけではない。それでもそれぞれのタイヤがロックしないということによって、滑りやすい路面での直進安定性と操縦性が維持される。

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