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古川修の次世代自動車技術展望

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「走る・曲がる・止まる」制御技術の大発展

芝浦工業大学 特任教授 古川 修 氏

4WSの進化が新たな運動制御技術分野の創出へ

 当時、4WSの技術について調査したところ、後輪を操舵して高速走行での安定性を向上させる発想は、1960年代に東洋工業(現:マツダ)の研究者によって学会で発表されていることが判明。この技術は後輪車軸上の横加速度(通称:横G)を検知して、それに応じて後輪を操舵するものであった。

 ところが、このアイデアでは車体の直進安定性は向上するが、後輪の操舵角はドライバーのハンドル操作とは直結しておらず、衝突回避性能は変わらないことが予測された。直観的に結論は、衝突回避性能を向上させるためには、ハンドル操舵角に応じて後輪も操舵させることが良さそうだということに行き着いた。

 しかし、後輪を前輪と逆方向に操舵させることがいいのか、同方向に操舵させるほうがいいのかという問題が、直観だけでは解決できない。そこで、基礎研究のプロセスとして、さらに車両運動の理論モデルを表したシミュレーション解析と、4WSの実験車を製作しての実験評価を行うことにした。最終的に、「低速走行時には後輪を前輪と逆方向に操舵し、高速走行時には同方向に操舵する」という結論に至った。

 応用研究のプロセスに入り、後輪の操舵の方向を走行速度に応じて可変させるための機構のアイデアがいくつも検討された。しかし、どれも複雑なメカニズムと電子制御が必要で、安いコストで信頼性高く機能を維持できる要件には当てはまらなかった。そこで、さらに発想を変えて、ドライバーの操舵が小さいときには後輪が前輪と同方向に操舵され、大きいときには逆方向に操舵されるという新たなアイデアに行き着いた。

 つまり、高速走行では、ドライバーはハンドルを少ししか切らない。そのときには、後輪は前輪と同方向に操舵されて、走行安定性と衝突回避性能を向上させる。また、低速走行で小回りしたい条件ではドライバーはハンドルを大きく切り込んでいくので、後輪を前輪と逆方向に操舵させるという発想の転換だった。

 そして、「ハンドル操舵の大きさに応じて後輪の切る方向を可変する」アイデアを舵角応動型4WSと命名した。実用化の大きなポイントとなったのは、電子制御を用いずに純粋に機械機構だけで実現できることだった。

 この後、舵角応動型4WSの設計開発を行い、プロト実験車を作製。効果が認められたことから商品開発に移り、1987年、3代目「プレリュード」に搭載して発売と相成った。世界初の乗用車用4WSの実用化に成功した瞬間だった。

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