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古川修の次世代自動車技術展望

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「走る・曲がる・止まる」制御技術の大発展

芝浦工業大学 特任教授 古川 修 氏

月に人類が降り立っても、地球では多数の交通事故死

 1960年代は米国がアポロ計画で初めて人類を月の表面に足跡を残す素晴らしい科学技術の成果が示された。ところが、地球表面に目を向けると、多くの人間が自動車交通事故で死亡していた。1969年から消費者運動家のラルフ・ネーダー氏が「欠陥車問題」を指摘し、自動車の安全性が社会問題となりつつあったのだ。

 それを受けて、米国運輸省の高速道路交通安全局(NHTSA)は、コストを度外視して安全性を飛躍的に高める技術を盛り込んだ実験車の開発を世界に呼び掛けたのだった。これがESV計画である。

 ESV計画に対して、日本では通商産業省(現:経済産業省)が所管となり、トヨタ自動車と日産自動車が正式に参加表明を行った。ホンダは当時二輪車に加えて軽自動車を商品化し、初めての小型乗用車「シビック」をやっと市場に提供し始めた後発の自動車メーカーという存在。そこで、ESV計画には準参加という立場で、「シビック」を改造したESVプロトタイプを仕上げて報告していた。

 特にホンダの安全性の考え方としては、ホンダの軽自動車や小型乗用車が米国製大型車と衝突して被害を軽減するのは難しいので、自動車の運動性能を高めて衝突を回避しやすくすべきという哲学を基盤としていた。

 筆者がホンダに入社した1977年には、すでにESV計画は終了しており、安全性を飛躍的に高める技術を市販車向けに開発することが急務となっていた。そのため、運動性能を飛躍的に高める技術のアイデア出しの会議がすぐに始まった。

 しかし、参加者各人からいろいろな案が出されたものの、どれも「これだ!」という決め手に欠けていた。そこで、議論の原点に戻り、ホンダが当時生産していたFF(フロントエンジン・フロントドライブ=前輪駆動)車の基本構造を見直しすことになった。

 そうしたところ、FF車では前輪は操舵機構、ブレーキ装置、駆動装置がついており、走る・曲がる・止まるという各性能に大活躍をしているのに、後輪はブレーキがついているだけで、それもブレーキ作動時には後輪の接地荷重が減少して、前輪の4分の1程度の減速効果しか発揮していないことが分かった。それゆえ、後輪をもっと活用させれば運動性能が飛躍的に向上するのではという発想につながり、後輪を新たに操舵に参加させる技術の検討が始まったのだ。

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