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古川修の次世代自動車技術展望

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「走る・曲がる・止まる」制御技術の大発展

芝浦工業大学 特任教授 古川 修 氏

 たとえ自動運転技術が実用化されたとしても、自動車の「走る・曲がる・止まる」という基本的な運動性能の確保は必要である。日欧米の自動車メーカーは1970年代までは、サスペンションやハンドル、ブレーキ、駆動方式、ボディー構造などの設計に工夫をこらして、自動車の運動性能を高める技術開発を続けた。

 1980年代になると、日本のメーカーを中心としてアンチロックブレーキシステム(ABS)や四輪操舵(4WS)といった、ブレーキやハンドルを積極的に制御して運動性能を向上させる新しい試みが登場する。今回は、4WSをはじめとする自動車の運動制御技術について、その原理、開発の歴史などについて振り返ってみる。

ジープ搭載の初期4WSにはありがたみなし

 4WSの実用化は、従来の構造の自動車では得られない領域まで操縦性の自由度を広げることになり、技術開発だけではなく学術研究の中に「車両運動制御」という新たな分野が生まれるきっかけになった。それ以降、サスペンションや各車輪のブレーキ・駆動力を制御する様々な技術アイデアが創出されて、電子横滑り防止制御(Electronic Stability Control:ESC)などの開発へつながっていく。まさに、自動車技開発史上のエポックメーキングと言ってよいだろう。

 手前味噌となるが、この4WSは筆者がホンダで10年の歳月をかけて、発想、研究開発、商品化を手掛けたものであり、研究開発中に学術発表を系統的に行ってそれを見た他社メーカーも同時期に4WSの技術開発を開始することにもつながった。

 前輪とともに後輪を操舵するシステムである4WSは、技術自体は新しいものではない。例えば1940年代に米国のウィリス・オーバーランド社などは後輪を前輪と逆方向に操舵するジープを実用化している。

 しかし、当時の4WSは商品としては成功しなかった。というのも、後輪を前輪と逆方向に操舵する目的は低速走行でより小さい半径の小回りができるようにすることであるが、消費者にとっては価格が高くなる割にはありがたみが感じられなかったからだ。さらに、後輪を前輪と逆方向に操舵すると、高速走行では安定性が逆に低下することも、商品の魅力を損ねてと推察する。

 一方、ホンダでの4WSの発想は上記とは逆で、高速走行での安定性や緊急障害物回避性能の向上を目指したものだった。この技術発想の背景には、1970年代に世界の産官学が連携した壮大なプロジェクトの実験安全自動車計画(ESV)がある。

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