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労基署は見ている。

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「1メートルは一命取る」実際にあった労災

原労務安全衛生管理コンサルタント事務所代表 原 論氏

会社を潰すことが仕事ではない

 監督官の仕事は、労働基準法令が守られて、働く人が安心して安全に働く職場環境をつくれるようにすることである。職場における主役は、あくまでも「労働者」と「使用者」であって、監督官は部外者なのだ。

 極論を言ってしまうと、労働者の目的は、なるべく高い対価を、短い労働時間で得ること。逆に使用者の目的としては、なるべく低い価格で長く働いてもらうこと。こういう観点から、労働者と使用者の向いているベクトルは真逆であり、対峙する関係でもある。働きがいとか様々な言い方があるが、それは正当な対価をもらってはじめて言えるようなことであり、使い捨てのような扱いのもとでは、そういった考え方は生まれない。

 こういう対峙関係にある「労働者」と「使用者」が、企業という枠組みのなかで活動を進めながら利益を出していくために必要なものが労働関係法令であり、このルールに沿って働くことで同じ方向に進むことができるのだ。このルールが守られないと、労働者は疲弊し、トラブルとなり、辞めていったりけがをしたり、最悪の場合死亡したりする。

 働く場におけるルールが適正に守られているかどうかを確認し、守られなかった場合に守るように指導すること、結果的に取り返しのつかないことになった場合にルール違反として処罰を求める手続きを行うことが、監督署の仕事になるのである。

 少し前に、あるエステサロンの社長が、労働条件のトラブルになった従業員に対し、「労働基準法を守ると、会社が潰れてしまうわよ!」と言ったことが、ネット上で公開され、各方面からバッシングを受けてしまった。監督署からは労基法違反について是正勧告書を交付されてしまい、結果的に、会社側はお詫びの文書をホームページ上で公表することになった。

 労働基準法は、会社を潰すための法令ではない。あくまでも向いている方向が違う「労働者」とトラブルを生じさせることなく、会社を同じ方向に進めていくための法律でしかないのだ。それを理解できない経営者は、淘汰されてしまうのかもしれない。労働関係法令には、会社の営業を停止させる権限など存在しない。主役はあくまでも「労働者」と「使用者」なのである。

原論著 『労基署は見ている。』(日本経済新聞出版社、2017年)第2章「職場の安全と健康を守る」から

原 論(はら さとし)

原労務安全衛生管理コンサルタント事務所代表。社会保険労務士。
1968年生まれ。1992年千葉大学法経学部卒。同年、労働基準監督官として労働省(現厚生労働省)入省。神奈川、埼玉、東京の労働基準局(現労働局)などに勤務後、2011年3月、退職。2012年4月、原労務安全衛生管理コンサルタント事務所を開設。

労基署は見ている。

著者:原論
出版:日本経済新聞出版社
価格:918円(税込)

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