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労基署は見ている。

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「1メートルは一命取る」実際にあった労災

原労務安全衛生管理コンサルタント事務所代表 原 論氏

1人の生命が失われているのだ!

 早速聴取を開始、当日一緒に作業した者、トラックの運転手、遺族、そして社長という流れで聞いていくことにした。その結果、作業計画に関しては、誰に聞いても知らなかったし、法令も知らなかったようだった。

 実は、当日ともに作業した者のなかに、被災者の息子が含まれていた。父親が後ろ向きに道路に転落し、意識がどんどん薄れていく様子を、その息子は目の前で見ていたということであった。父親が大好きで、父親と同じところで働きたいと勤務し始めて数年経ったところだったということを、遺族からの聴取ということで話を伺った被災者の妻から聞かされた。

 被災者の妻としては、非常に複雑な心境であったようだ。夫が亡くなった原因は会社の管理上の問題であるし、かといって現在も息子が会社に世話になっているというのだから。社長は、事故の原因が無計画な作業であることを素直に認め、反省の言葉を口にした。「従業員が死亡してしまった以上、無計画に作業させていた責任は自分にある」と。

 話は少しだけそれるが、送検する前に約200キロのフレームを特定させる必要があったのだが、すでに納品して現物の形ではなかったため、フレームを製作した会社の厚意により、全く同一の製品をつくってもらい、それで再現の実況見分を実施した。

 重量に関しては、日頃指導などで何度も立ち入っていた大手の鉄鋼メーカーの現場に重量物のデジタル測定器があることを思い出し、連絡したところ、こちらも協力を得られたので、製品を持ち込んで測定をお願いしたことがあった。署内の協力はほとんどなかったのだが、外部からの多数の協力によって送致に至ったことは、今でも感謝しているところである。

 検察庁に事件を持ち込んだところ、1カ月もたたないうちに略式起訴の連絡がきて、会社と社長が罰金刑ということになった。人1人の命が失われた以上、その結果としての責任は問われることになるということを、改めて感じさせる事件だった。

 ただ、私の仕事は警察と違い、事件を送ったらそれで終わりではない。働く人が安心して安全に働く職場環境をつくることを目指す行政機関の監督署である。今回の事件送致後も、その後の是正を確認する必要があった。

 実際に訪問したところ、立派な作業計画がつくられており、それに基づいてフォークリフトなどを動かしていた。被災者の息子も元気に働いていて、フォークリフトの運転資格を取得したということを聞き、少し安心したところであった。

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