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石油について時代錯誤の論説に惑わされるな

藤 和彦 氏

 特に東日本大震災以降、日本のエネルギー戦略は大きな岐路に差し掛かっているが、筆者が注目するのはロシアカードである。安倍首相とプーチン大統領という両首脳の親密な関係から、日ロ間の関係は戦後最高レベルに達していると言っても過言ではないが、日本では相変わらずロシアからのエネルギー供給に対する懸念が根強い。世界のエネルギー専門家の間では「ロシアは信頼できるエネルギーサプライヤーである」との評価が固まっているにもかかわらず、である。

 米国のシェールオイル・ガスの日本への輸出に対する期待もあるが、米国は依然としてエネルギーの需要大国であることから、輸出余力が大きいとは言えない。サハリンなど東シベリアの原油・天然ガスは、開発が遅れ輸送インフラも整備されていないことから、莫大な資源が手つかずのままで残っている。しかも中東地域と異なり輸送距離が短く、シーレーンの確保も比較的容易である。日本の原油・天然ガス輸入に占めるロシアのシェアはそれぞれ1割前後にすぎず、今後その拡大が期待できる。

 日本では2016年4月から電力が自由化され、2017年4月からガスの自由化が実施されることになっているが、これまでのところ大きな変化が生じているとは言いがたい。このような状況を打破するためにも、筆者が長年主張している「サハリン地域の天然ガスをパイプラインで日本に供給する」構想が有益であると考えている。日ロ間をエネルギー・インフラでつなぐことは安全保障上の面でもプラスの効果があることは、冷戦下の西欧・旧ソ連間の歴史が証明している。

 日本のエネルギー政策の大転換の時期であるからこそ、第一次石油危機を契機に日本に定着した石油に対するステレオ・タイプ(枯渇神話、OPEC神話、メジャー神話など)を改めて排したいと考えている。

 読者の方々においては、石油についての時代錯誤の論説に惑わされることなく、しかし原油市場の情勢に即した認識を持っていただきたい。時々刻々状況は変わるように見えるが、変化の底流にある事象を正しく捉えていけば適切な対応策が見えてくるものである。その際の考えるよすがになればと思い、改訂版を上梓した次第である。

サハリンパイプライン計画

 筆者が長年主張しているのは、「日ロ天然ガスパイプライン」構想である。

 サハリンから日本までパイプラインを敷設し、天然ガスを輸送するプロジェクトで、10 年以上前から構想としては存在していた。ロシア側も乗り気と言われていたが、原子力発電比率の拡大を推進していた電力会社の意向などの問題がクリアできず、挫折した経緯がある。しかし、東日本大震災以降、エネルギー資源の多様化の一環として再び脚光を浴びつつある。

 サハリン南端のクリリオン岬~稚内間、北海道~本州間の2カ所は海底パイプラインとなるが、大半は国道や高速道路の地下などを活用する方針である。サハリン南端から首都圏までは約1400キロメートルである。

 北緯52度、稚内から南端まで最短43キロメートルのサハリン島の約600キロメートルの海岸沿いの浅い海底下に膨大な量の天然ガスが眠っている。津軽・宗谷という2つの海峡を挟んでいるが、ほとんど地続きと言ってもいい。東京からは直線距離で沖縄より近い。

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