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石油について時代錯誤の論説に惑わされるな

藤 和彦 氏

 原油価格急落の要因を原油市場の供給過剰に求める向きがあるが、この間の世界の原油市場の需給ギャップは最大で日量200万バレルにすぎない。世界の原油生産量が日量9500万バレルであることに鑑みれば、世界の原油生産量の2%程度にすぎない供給過剰のみでは原油価格が2014年前半に比べて3分の1となった理由にはならない。

原油価格下落の原因は原油先物の金融商品化

 筆者は「その原因は原油先物の金融商品化にある」と主張しているが、リーマン・ショック以降、原油価格の変動率(ボラティリティ)が以前に比べ格段に大きくなったことがその証左ではないだろうか。

 需要面に目を転じると、この10年間の世界の原油需要を牽引してきたのは中国だったが、経済の減速により今後の伸びは期待できないどころか、むしろ減少する可能性がある。先進国の原油需要は2005年以降減少しているが、発展途上国の原油需要も減少に転ずる事態になれば、原油供給のピークより前に原油需要のピークの方が先に来るかもしれない。

 このような状況から筆者は「2017年以降も原油価格は引き続き低位で推移するが、世界の金融市場に異変が生じれば1バレル=20ドル以下になるリスクがある」と見ているが、もしそうなれば原油を巡る情勢はどうなるのだろうか。

 日本では2014年後半からの原油価格下落を歓迎する声が多かったが、筆者は当初から「メリットよりもデメリットの方が大きい」と主張してきた。筆者は湾岸産油国への深刻なダメージが原油の安定供給に大きな支障をもたらす事態を招くのではないかと懸念していたからである。

 中でも心配なのはサウジアラビアである。サウジアラビアに一朝事があれば、戦後の日本経済を支えてきた原油の安全供給体制が最大の危機を迎えることになる。文字どおり「油断」である。

 筆者は、「シェール革命が生じたことで米国で『エネルギー・モンロー主義』が台頭する」と警告を発してきたが、米国でトランプ新政権が成立したことでその可能性が急速に高まりつつある。

 一方、経済が急成長したことにより中国は米国と並ぶ原油の輸入大国となったが、南シナ海をはじめとする自国の近海を「内海」化する動きを強めている。米国が自国の利益のみを優先するようになれば、中東湾岸地域からのシーレーン(有事のために確保する海上路)を日本だけで守ることができるのだろうか。

 原油先物が金融商品化するとともに、米国のエネルギー自立が現実味を帯びてきたことで世界の原油市場は今後激変する可能性がある。残念ながら日本も地政学的な発想も加味しつつ、今後のエネルギー戦略を構築せざるを得ない状況になりつつあるのだ。

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