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IoTの勘所

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IoTは難しくない、失敗恐れずスモールスタートを

東京大学大学院工学系研究科 教授 森川博之氏

 経営者が現場を知ることと同時に、現場の人の意識を変えることも必要になる。

 「現場は大きな変化を嫌います。本社からトップダウンで現場をこう変えなさいと言われても、それだけで現場はうまく動きません。業務の改善になるアナログプロセスを見つけ出すように現場の人の意識を変える必要があるのです。そのためには、トップが変化の方向性を言い続けなければなりません。言い続けると、レガシーな現場の人の中からも新しい視点が出てきます。その変化を生み出すことが重要なポイントではないでしょうか」

 森川氏は例として、あるビール工場のIoT化について説明する。ビール工場では多くの水を使うが、それらは様々なフィルターを使って濾過する必要がある。そのフィルターの調整は職人技なのだそうだ。しかし、フィルターの調整というアナログプロセスが存在して、それが職人技の調整を必要とするという現場の事情がわかれば、「デジタル化が可能かどうか」、そして「IoTでフィルターの調整をすれば生産性が向上するかどうか」を検討できるようになる。こうしたアナログのプロセスをリストアップし、生産性向上につなげられるかどうかの発想を得ることが大切であり、そのためにはデジタル化の旗を掲げ続けることが必要なのだ。

失敗は当然、「海兵隊」の意識を持て

 もう1つ、経営者がIoTを推進する際に必要な考え方として、森川氏は「IoTを実践する部隊は海兵隊だと考えるといい、と経営者の方々には伝えています」と語る。

 「海兵隊は、本隊よりも小さな組織で、先鋒隊として最前線に向かいます。危険な領域ですから、海兵隊の作戦では死亡率が高いわけです。安全なところに行っても、それは海兵隊の仕事ではありません。一方で、海兵隊が先鋒隊を務めて成功した作戦は、その後に大規模な本隊が合流して戦果を確実なものにします。これは、IoTに対する経営者や管理職が持つべき考えと同じだと考えています」

 IoTも、様々な領域での可能性を探る必要があるが、海兵隊の考え方でコンパクトな組織をつくり、失敗する確率が高いことを認めた上でプロジェクトをスピーディーに進めることが求められる、というわけだ。

 「IoTに定石はまだありません。トライだと割り切って、少ないリソースで試してみる、とにかくやってみる、ということが重要です。やってみないと、どこに価値があるかわからないのです」

 IoTのプロジェクトは失敗することを前提にすべきで、失敗したら責任を取らせるという守りの考え方ではなく、「よく失敗した、また失敗してこい」と送り出すような攻めの考え方が必要だという。森川氏はアナログデータのデジタル化による成功例を示して、考え方の道筋を照らす。

 「スペインのお笑い劇場の例があります。この劇場では、座席にセンサーを付けて観客が笑ったことを検知すると課金する『ペイ・パー・ラフ』という仕組みを導入しました。上限はあるのですが、笑うたびに課金されるのですから、お客さまは一生懸命笑わないようにするかもしれません。私が支配人だったとしても、導入に踏み切れるかどうかわかりません。しかし、失敗を恐れずにやってみたら、お客さまはペイ・パー・ラフを好意的に受け入れ、以前よりも売り上げが伸びるという結果につながりました。『やってみた』ことで、その成果を得られたわけです」

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