日本経済新聞 関連サイト

IoTの勘所

記事一覧

IoTは難しくない、失敗恐れずスモールスタートを

東京大学大学院工学系研究科 教授 森川博之氏

 「例えば、ゴミ箱にセンサーを付けることを考えましょう。ゴミの量がわかるようになるのですが、そうすればゴミがないのにゴミの回収に行く必要がなくなり、回収コストを減らせます。複数のゴミ箱のゴミの量を総合的にデータ処理すれば、最適な回収ルートを算出することもでき、回収コストを3分の1に抑えられるという試算があります。ほかにも、バスの事例を考えてみましょう。埼玉県のイーグルバスでは、バスにGPS(全地球測位システム)と乗降センサーを取り付けました。これでバスの位置と乗降客数をデジタルデータとして蓄積でき、効率的な運行やバスルートの再編により売上向上につなげることができました。こうした事例を見ると、『IoTは難しくない』ことがわかるのではないでしょうか」

 IoTは難しくない。これはありがたい指摘かもしれない。IoTというと、ビッグデータを解析してAI(人工知能)を使う必要があるのではないか、というハードルの高さを感じている人も少なくないだろう。森川氏は、そうしたハードルを意識する必要はないという。

 「最近話題の深層学習のような先端AI技術が必要になるような状況は、普通の企業ではなかなかないでしょう。少なくとも、深層学習AIで分析するだけのデータの量がないわけですから、先端的なAIは必要ないと言い切ってしまってもいいぐらいです。AIは、表計算ソフトと同じように単なるツールとして捉えればよいのです。それよりも、何がデジタル化できて生産性向上や価値創出につながるか、その気づきのほうがよほど大切です」

 ゴミ箱のゴミの量を測るだけといった簡単なソリューションでもIoTになる。現場の経験や勘も、デジタル化してデータとして可視化していけば、知識の継承につながるIoTソリューションになる。IoTの内容そのものはかなり幅広く捉えてもいい。

 別の見方をすれば、IoTに取り組むからといって、まったく新しいことを始める必要はないともいえそうだ。業務の中に残されているアナログな部分をデジタル化して定量化・可視化するだけでも、生産性の向上を図ったり、新しい価値創出のヒントを見つけたりできる可能性がある。そう考えれば、IoTへの取り組みの一里塚が見えてきそうだ。

経営者は「現場」を知らなければならない

 一方で、経営者が気をつけなければならないのは「現場を知る」ことだという。

 「大企業の経営者と話をすると、『本社にいると現場が遠いんですよ』といった声をよく聞きます。業績の数字は見ていても、本当の意味での現場の姿を見る機会が少なくなってしまうのでしょう。ところが、IoTはアナログプロセスのデジタル化ですから、IoTを活用すべき場所は現場で見つけなければなりません。経営者は、今の現場を知ることがまず必要になるのです」

PICKUP[PR]