日本経済新聞 関連サイト

この時代を乗り切るワークスタイル改革

記事一覧

シニアの活躍なしに企業の成長はあり得ない

自分楽 代表取締役 崎山みゆき 氏

―― 「ジェロントロジー」とは何でしょう。

 「老年学」「加齢学」と訳され、医学・生理学・社会学・心理学・栄養学などさまざまな学術分野を横断的にカバーする学問です。加齢(エイジング)に伴う生涯発達や高齢化社会における生活、人間関係、心や健康の管理、老人介護や諸制度・政策、経済など、さまざまな領域の問題を、多角的な側面から問題をとらえ、総合的に研究するのが特徴です(※)。

(※)参考:日本応用老年学会

 私たちが研究している「産業ジェロントロジー」は、シニアの心理や身体機能を研究し、個々の労働者が能力を発揮できる環境を実現するための学問です。若年層の労働能力の違いを理解することを重視しています。例えば、「創意工夫でビジネスを発展させる」と言いますね。「創意」は若者、「工夫」はシニアが得意な領域...という具合です。

 イギリスの心理学者であるレイモンド・キャッテル氏は、知能因子を「流動性知能」と「結晶性知能」に分類しました。流動性知能は、未知の環境への適応に必要で、新しいことを知能として定着させる能力です。一方、結晶性知能は、過去の経験に基づく判断や習慣で蓄積した知識を活用し、問題を解決する知能です。流動性知能は加齢とともに急激に低下しますが、結晶性知能はそうではありません。個人差がありますが、80歳を過ぎても衰えない/伸びる人もいます。シニアは「過去の知識を生かし、工夫する」という能力を持っています。これは、さまざまな仕事に役立ちます。

―― 具体的にどんな仕事がシニアに向いていますか。

 例えば、コールセンター業務でも、丁寧に商品説明をするスキルはシニアのほうがあります。また、相手の話をじっくりと聞き、臨機応変に対応できる能力もあるので、クレーム対応にも向いています。もちろん、すべての高齢者がそうだとはかぎりませんが、人生経験が豊富なぶん、メンタル面でも強い人が多いです。

 また、台所用品やお弁当のメニュー開発など日用品の商品開発にも向いているでしょう。定年退職した栄養士さんが考える介護食などは、高齢者が増えればニーズはありますよね。若年層は気付かないかもしれませんが、高齢者はお弁当のツルツルとした包装ビニールを開けるのにも苦労します。こうした改善ポイントは、当事者ではなければ出てきません。

 一方、スピードを求められる作業や、新たなことを覚えなければならない作業は苦手です。また、身体的な老化も考慮に入れなければなりません。例えば、社内で利用するドキュメントは、10.5ポイントの文字サイズが多いですよね。しかし、これでは文字が小さすぎて、読めないシニアが続出してしまいます。また、タブレット端末のタッチパネル操作は(シニアの)皮膚の乾燥によって反応が鈍くて使いにくい。さらに、部署で情報を共有するためのグループウエアの使い方は学んだことがありません。よって連絡事項が伝わらずに業務が滞ったり、シニアが疎外感を感じてやる気をなくしたりしてしまいます。

「シニアに向いている仕事」を洗い出す

――シニアの活用は、企業が働き方改革を進めるうえでどのような影響を与えますか。

 シニアの雇用は、残業が当たり前といった日本企業の働き方を変え、社員一人ひとりの生産性向上に貢献すると考えています。

―― なぜでしょう。

 働き方改革では、時短労働やリモートワーク導入がクローズアップされていますが、いまだに多くの企業では「法定労働時間(8時間)+残業」が当たり前です。特に現在50歳前後の経営層は、社会人になったとき、バブルの絶頂期でした。当時は「働けば働くほどお金がもらえた時代」です。初月給で寝袋を買い、応接室のソファで寝る人がいても珍しくない時代だったんですね。しかし、シニアにそんな働き方は身体的に無理です。また、シニアは(家族の)介護や地域活動など、若い頃と比較し、ライフイベントも増えているのです。

PICKUP[PR]