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労基署は見ている。

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労働基準監督官は予告なく訪問する

原労務安全衛生管理コンサルタント事務所代表 原 論氏

 新入社員の自殺が労災認定された大手広告代理店問題で一躍注目を浴びる労働基準監督署。どんな組織で、どうやって情報収集・調査をするのか? どういう会社がターゲットになるのか? タレコミやがさ入れの実態は? 元監督官が知られざる全貌を明かす。

労働Gメンと呼ばれる監督官のノルマとプライド

 横浜市内のある監督署に勤務していた頃、とある老健施設に臨検監督を行ったことがある。サービス残業が行われているという情報をもとにして、介護職員の勤務の実態を把握することが目的であった。

 この頃は、事業場に訪問する際にはあらかじめ連絡をしておくことが多かった。限られた時間で効率よく件数をこなしていくには、訪問した際に担当者がいないと複数回訪問することになってしまう。当時の私は、その月に割り当てられたいくつかの事業場を確実に訪問するという計画件数(=ノルマ)を達成するよう、自分自身を追い込むようにしていた。

 どこに行くのかはあらかじめ指示を受けているものの、いつ行くのかというのはあくまでも各監督官の判断だった。

 司法事件や災害調査などの手持ちの事案があると、空いた時間などにはこの取りまとめを行うのだが、そちらを優先すると、結局、事業場に行くことなしに月末を迎えてしまう。ノルマ未達成ということになれば、自分自身のプライドが許せない思いがあった。

 現在でこそ、労働基準監督署の職員も勤務評価を行い、給与に反映されることになっているが、私が退職するまでは、ノルマの達成率そのものは直接給与に影響することはなかった。

 そういう意味では、上司からのお小言とプライドがなければ、ノルマ未達成であっても可能な組織であった。しかし私にとって、最低限組まれた計画くらい100%こなせないのは屈辱すら感じてしまうところがあったので、計画以上の件数をこなそうと努力していた。

予告なし訪問、問題があれば雰囲気でわかる

 その老健施設では、タイムカードの打刻は業務終了の前に行わされるという情報であったため、予告は行わず実際に行って確認してみようと考え、何も連絡せず訪問することにした。

 老健施設というのは、やや大きな病院が母体となって経営していることが多く、医療的なケアやリハビリが欠かせない介護の必要な高齢者が入所する施設である。そのため、代表者は医師であることが多かった。

 病院というのは、労働基準監督署にとっては厄介な存在であった。医師の労働環境よりも命が優先などという言い方がまかり通っていて、指導に耳を傾けないところも多く存在した。

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