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デジタル変革マーケティング

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左脳でインプット、右脳でアウトプット

横山隆治氏 内田康雄氏

 筆者はよく講演で、こういう比喩で表現します。「(ドラマの『24』で)いくらクロエ・オブライエンが天才分析官でも、ジャック・バウアーが『こういう分析をしてくれ』と指示をしなければ成果は出せない」。つまりジャック・バウアーは最前線で戦っていますが、データ分析の実際も、自分では直接やらないまでもよく熟知しています。

 マーケティングでも実戦に臨んでいる者、つまりビジネスロジックを知り、顧客をイメージできて、施策の実際を経験的に知る人に、「打ち手」を差配できる「情報」(これはデータではなくインテリジェンスとしての「情報」)が供給されないといけませんが、この主体たるマーケターが分析官にどう分析してほしいかを指示できれば、これに勝ることはありません。

 しかし現実はマーケターがデータ分析の知見を持つということの意味はあまり目を向けられることはありません。データサイエンティスト(データ分析専門家)ばかりが注目されますが、多くの場合、データサイエンティストばかりを配備しても、結局「マーケティング施策に貢献する有効な分析結果を得られない」という状況がほとんどです。

 たしかに分析官には数学的な思考、つまり「左脳」が必要条件ですが、実際の施策には「右脳」を働かせるマーケターの思考センスがいります。ということは、データサイエンティストにもある種のセンスが必要で、施策に通じる「情報」を、どう与えられるかが肝心です。

 たとえば、マーケティングにおけるデータは、消費者あるいはその中のターゲット生活者の行動や意識を反映したものです。人の行動によるデータを分析するということは、ある意味「人間観察」をするということでもあります。

 数字を数字として見るのではなく、その裏側に人の行動やシーンを映像化する感覚がないと、データサイエンティストは務まりません。

 筆者は、データドリブンなマーケティングについて「左脳でインプットして、右脳でアウトプットする」という言い方をします。そのためには、右脳と左脳を繋ぐ作業が最も重要です。医学的には右脳と左脳を繋ぐのは脳梁という部分だそうですが、ここが発達していないとデータドリブンマーケティングは実行できないでしょう。

 また、こんな表現もできます。「データはマーケティングのコメである」。しかし、コメはそのままでは食べられません。コメをご飯に炊いて、料理人がさらにおいしい料理に調理しますが、データサイエンティストは下ごしらえとしてコメをおいしいご飯に炊いて(データを使える情報に加工して)、料理人であるマーケターに用意してあげる必要があるのです。

 どちらが、どちらにアプローチして、オーバーラップするのか、それは両方からということになるでしょう。マーケターもデータサイエンティストに、データサイエンティストもマーケターに、それぞれが歩み寄ることで、従来にはなかったスキルセットが確立されます。こうしたスキルをしっかり育成する場を作り実践する企業が、必ず勝ち残るでしょう。

横山隆治・内田康雄著 『デジタル変革マーケティング』(日本経済新聞出版社、2017年) 第1章「マーケティングを「デジタル」で再定義する」から

横山 隆治(よこやま りゅうじ)

デジタルインテリジェンス代表取締役。1982年青山学院大学文学部英米文学科卒。同年旭通信社入社。96年デジタルアドバタイジングコンソーシアムを起案設立。同社代表取締役副社長に就任。2001年同社を上場。インターネットの黎明期からネット広告の普及、理論化、体系化に取り組む。08年ADKインタラクティブを設立。同社代表取締役社長に就任。10年デジタルコンサルティングパートナーズを主宰。11年デジタルインテリジェンス代表取締役に就任。『CMを科学する』『リアル行動ターゲティング』など著書多数。

内田 康雄(うちだ やすお)

デジタルインテリジェンス データドリブン・ストラテジスト。2007年早稲田大学教育学部卒。同年デジタルアドバタイジングコンソーシアム入社。ウェブ解析の導入活用支援、ROIトラッキング領域の専門家として活躍。13年デジタルインテリジェンスに入社。大手法人向けに、マーケティングを最適化するためのデータ分析やテクノロジーの導入運用等のコンサルティングを行っている。Digital Analytics Association認定Web Analyst、日本交渉協会認定交渉アナリスト。

デジタル変革マーケティング

著者:横山隆治・内田康雄
出版:日本経済新聞出版社
価格:3,024円(税込)

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