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AI時代に求められる働き方と人事制度

樋口美雄・慶大教授 × マルセロ・モディカ・米マーサーCPO 対談

樋口 私がよく使う言葉に「殻の保護より、翼の補強を」というのがあります。殻とは社会保障などを指し、国などの保障に依存するのでなく、個人が自立して能力を生かす社会を目指すべきだという意味です。これからは定年の60歳を過ぎても、起業も含め、10年、20年と働く時代になりますから、それを見据えて、在職中から自分の得意技を意識して磨いていく必要があります。

 そのためには、会社から言われたことだけをやるのでなく、意図的に自分の時間を作る工夫もいるでしょう。逆に企業は、社員がフレキシブルに働ける環境を整え、自立を手助けしていくことが求められます。

人事制度を根本から問い直す

――最後に、日本政府は「同一労働同一賃金」や「残業時間の上限設定」といった働き方改革を実現しようとしています。今後はどういう方向に進むべきでしょうか。

樋口 働き方改革というと、どうしても今の法律をどうするといった話になりがちですが、長い目で見た改革のあり方を考えることも必要です。一言でいえば、個人の持つ意欲、能力をどう発揮できるか、そうした環境をどう整えていくか、それに尽きるのではないかと思います。日本は性別、年齢、国籍など働く人たちの多様化が進むと同時に、人口減少社会を迎えようとしています。従来の画一的な制度では立ち行かないのは明らかです。

 企業の人事制度も岐路に立っていると言えます。人材の多様化が進むなかで、人事制度はそもそも何のために、どのように作られてきたのか、根本から問い直す必要に迫られているのです。例えて言えば、クルマを運転するとき、順調であれば運転手はエンジンのことを考える必要はありません。しかし、クルマが故障した場合は、クルマがどうして走るのか、エンジンのメカニズムを知っていないと対応できないわけです。

 人事部でいえば、今まではローテーションでたまたま配属されてきた素人でも務まったかもしれませんが、これからは人事制度に精通したプロの人事部人材が必須となります。他社がやっているからとか、見よう見まねで制度を導入するのでなく、なぜこの評価制度や賃金体系が必要なのか、合理的に説明できなければ、多様化する社員のモチベーションを上げることはできません。あうんの呼吸は通用せず、確固たる信念と、AIなどを活用したデータを組み合わせることで、組織としての生産性向上に貢献することが求められるでしょう。

モディカ 企業を取り巻く環境は様変わりし、今までとは異なる道を進んでいかなければなりません。人事部門の果たす役割も大きく変化し、従来にも増してビジネス面での役割を担うようになるでしょう。人事部と事業部門の人々が関わる場面も増え、人事がビジネス・パートナーとなり、収益に貢献する組織としての役割を果たすようになると思います。

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