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グローバル競争を勝ち抜く組織・人事

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AI時代に求められる働き方と人事制度

樋口美雄・慶大教授 × マルセロ・モディカ・米マーサーCPO 対談

継続的なフィードバックが可能に

――欧米企業、グローバル企業といわれる組織ではいま、人材戦略についてどんなトレンドがありますか。たとえば、報酬や人事評価、人材育成、グローバル対応などについて。

モディカ 企業が取り組んでいる施策にはいくつかトレンドがあります。一つは社員の退職後を見据えた教育です。かつては退職後も安心して暮らせるよう、企業がある程度の手助けができたわけですが、高齢化や企業の収益環境の変化により、退職後は個人の自助努力がより一層求められるようになっています。自分で年金向けの資産を運用する確定拠出年金などはその一例です。退職後の生活や医療にどれだけコストがかかるか、財産と健康(ファイナンシャル・ウェルネス)に関する啓蒙活動に力を入れる企業が増えています。

 2つ目はダイバーシティーを阻む要因になる、社員の無意識のバイアス、つまり偏った考え方への対応です。例えば、ある男性の幹部社員が、女性を重要なポジションに付けたいと思っているのに、結果として男性ばかり重用してしまう。本人は自覚していないのに、無意識のうちに「この仕事は男じゃないとダメだ」と判断しているわけです。それを会社がリーダー層に認識させて、よりオープンな思考になるよう導いていく。マーサー社内でもそういう取り組みをして、男女共に公平な機会が得られるよう努力しています。

 3つ目としては、社員の成果に対する継続的なフィードバックが挙げられます。パフォーマンス・マネジメントの見直しと言われ、欧米のグローバル企業を中心に進められています。これまでは年に1回とか半年に1回、上司と部下が面談するなかでフィードバックがなされてきました。しかし、AI技術の進展により、誰と会ったとか、メールのやり取り、会議への参加状況といったデータから、社員の業務や成果を絶えず把握することができ、それをもとにフィードバックができるようになっています。これにより、社員の仕事のプロセスを早期に軌道修正したり、配置の転換を素早く実施したりできるわけです。

 マーサーでも面談やフィードバックを通年で実施することを推奨しています。上司、部下、同僚が複数の国にまたがることもあるので、"Anytime feedback"というシステムを使い、これによっていつでも自分が指定した人からのフィードバックを得ることができます。

樋口 欧米と一口に言っても、欧州と米国の企業では少し違うと思っています。実は米国では女性の就業率がこの10年間で5%も低下し、日本を下回ってしまいました。男性の勤続期間が長くなり、新しいポストが空かなくなったため、出産や育児で休んでいた女性が職場に戻れなくなっているのです。

 では、なぜ男性の長期勤続現象が起きているのか。技術革新の影響が大きいと言われています。企業の中にいないと急速な技術革新に追い付くのが難しい、あるいは、企業内で身に付けた技能が他社では通用しない。つまり、転職が不利になるので、今の会社に残る方が安心だというわけです。

 日本は法律で育児休業の期間が決まっていて、社員は希望すればもとの会社に戻れます。しかし、米国では法律でなく、企業ごとの契約で決まることが多い。しかも、評価の高い人は育休を取って復帰できるが、評価の低い人は育休を取れずにそのまま退職してしまうケースが多いのです。きちんと法律で育休制度を定めるべきだという声は米国内だけでなく、海外からも出ています。

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