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古川修の次世代自動車技術展望

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交通事故ゼロへの期待よそにADAS実用化の現状は?

芝浦工業大学 特任教授 古川 修 氏

 前回、「自動運転技術開発の本当の意義と価値とは?」では、自動運転技術の開発プロセスによって、一般道での交通事故を回避するADAS(Advanced Drive Assist System:先進運転支援システム)の要素技術が蓄積され、交通事故ゼロ化への道が開けることを提言した。今回は、より具体的にADASの技術の現状を紹介し、その機能限界を広げてあらゆる交通事故を防止できるようにするための、技術開発の方向性について考察する。

ADASの検討進めるオールジャパンASV推進計画の基本理念

 ADASが産学官連携のオールジャパン体制で開発・実用化へ向けて検討が始まったのは1991年のこと。この年に、運輸省(現:国土交通省)が「ASV(先進安全自動車)推進検討会」を設置。産官学の連携体制でADASの技術的可能性の検討が開始され、基本理念や技術指針などがまとめられた。その後、ASV推進検討会は1期5年ごとのくくりで進められ、現在もASVの開発・実用化・普及・高度化へ向けた検討が続けられている。

 ASVの基本理念は、ドライバーが主体となって責任を持って運転することであり、ASV技術(ADAS)はドライバーの安全運転を支援するということである。すなわち、以前紹介した自動運転の技術レベルに照らすと、レベル1、2の範囲となる。従って、現在実用化されているADASはすべて運転責任がドライバーにある。「ぶつからないクルマ」のコマーシャルでブレークした被害軽減ブレーキも同じく、ぶつかった場合はドライバーの責任ということが基本的な考え方だ。

 自動車メーカーはこれまでにも、米国に進出する際にPL(Production Liability:製造物責任)法と陪審員制度に随分と痛い目にあわされている。酒に酔って運転していたドライバーが起こした事故であっても、企業に責任があると判決を受けて、数百万ドルの賠償を支払わざるを得なかった例もある。

 これは、法律に詳しくない陪審員が無罪か有罪かという判決を下すために起こることであり、裁判官が中心となって判決を出す日本では考えられない。日本でも最近は裁判員制度が開始されているが、こちらは裁判員と裁判官が共同で判決を決定するもので、米国とは違う。米国の陪審員制度では陪審員だけで無罪か有罪の判決を行い、裁判官はその結果を受けて賠償額や量刑などを判断する役割となっている。

 自動車メーカーが交通事故での製造物責任の判決を受けたときには、その賠償金額はとても大きく、かつその後の同じような事故が起こったときに再度訴えられるなどリスクが大きい。それに加えて、衝突回避などという部分的な走行機能に限られているとしても、その機能は運転支援システムが運転責任をとるように想定すると、ドライバーはその機能の範囲外においてもシステムを過信してしまう恐れがあり、交通事故の起因を助長することとなる。このような理由で、ASV推進計画では「ドライバーが運転責任を負う」という基本理念で検討が開始されている。

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