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この時代を乗り切るワークスタイル改革

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働き方の常識変える、リクルートの奇策

リクルートホールディングス 働き方改革推進室 室長 林 宏昌氏

 一方で、「業務外コミュニケーションが増えた」と回答した従業員が18%いました。両者の違いを見ると、コミュニケーションツールの活用に「温度差」があったのです。

――どんな温度差でしょう。

 コミュニケーションが増えたと感じた従業員からは、「(コミュニケーションツールとして活用した)チャットは、たわいない情報を気軽に書き込める。だから雑談的な会話が増え、情報共有も活発になった」という意見が多かったんです。

 「コミュニケーションが減少した」と回答した従業員は、あまりチャットで雑談をしていない傾向がありました。たとえば組織長がチャットに「お疲れ様です。〇〇の案件については下記の資料をご参照ください」と書き込んだ後に、「△△付近においしいラーメン屋さんができたよ」とは書き込みにくい。そうなると「チャットには業務上必要最小限のことしか書き込まない」ことが暗黙のルールになり、コミュニケーション量が少なくなってしまいます。

 リモートワークに対する期待値にもばらつきがあるとわかりました。リモートワーク自体を否定する人はほとんどいませんが、「会う」という意味が個人によって異なっていたのです。物理的に会うことを「会っている」と捉える従業員と、チャットでコミュニケーションをしていれば「会っている」と認識する従業員がいる。ですから、「会議は物理的に会って話をするもの」と考える従業員は、リモートワークによってコミュニケーションが減ったと感じてしまうのです。

 今後はチャットによるコミュニケーションをもっと活性化させ、情報共有ツールとして活用することを目指したいですね。

成功のカギは、社員の自立

――リモートワーク時の労務管理はどうしていたのですか。

 リクルートは半期ごとに明確な業務ミッションを定めて個人を評価しています。ですから、仕事の進め方は個人の裁量に任せています。もちろん、従業員の健康管理といった観点から、労働時間マネジメントは会社としてしっかり行っています。

 リモートワークを成功させるためには、従業員が自身のタスクを管理する必要があります。仕事の段取りとコツがわかっている従業員は自分で調整できるのですが、仕事に慣れていなかったりスキルがなかったりする従業員ほど、時間をかけてタスクの遅れをカバーしようとしてしまいます。

 そうした課題を抱える従業員には、上長が伴走し、サポートする必要があります。上長はメンバーの様子を見ながら柔軟に判断しています。リモートワークは従業員が自分にとってベストな環境でパフォーマンスを発揮し、生産性を向上させるための手段です。「(リモートワークという)制度を導入したからやれない」というものではありません。

――社員には自律が求められますね。

 リクルートには、「多様な価値観と経験を持った個人がお互いにアイデアを出し合い、イノベーションを起こしていく」ことをビジョンに掲げ、起業家精神や圧倒的な当事者意識を持ち、やり切る人材に仕事を任せる社風があります。

 「働き方改革プロジェクト」を手掛けて以降、社外の管理職の方とお話する機会も増えましたが、「ウチには自律した社員が少ないから(リクルートとは)同じことができない」とおっしゃる方も少なくありません。

 しかし、「自律した社員が少ない」と嘆く経営者の方には、「『キミに任せるから思い切ってやってみろ』と社員に言っていますか」と伺いたい。「上司が仕事を与え、社員は手足となって動くだけ」というスタンスでは、「自らが仕事を組み立て、タスク管理をして実行に移す人材」は育ちません。

 「何のために働くのか」「どう働きたいのか」は、従業員一人ひとり異なります。ライフワークバランスの充実を目指すなら、「全体ルール」に従業員を当てはめるのではなく、従業員一人ひとりのニーズに応じて、会社のルールを柔軟に変えていくことが求められるでしょう。今後の働き方は、「全体最適」から「個別最適」に変えることで、いかに事業や企業の成長を加速するのかというテーマに変わっていくと思います。

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